悪性正中肉芽腫

アクセイセイチュウニクゲシュ

【仏】granulome malin me´diofacial

 

=進行性鼻壊疽

進行性鼻壊疽

シンコウセイビエソ

【英】nasal malignant granuloma

【独】Granuloma gangraenescens der Nase

【仏】rhinite gangre´neuse progressive

同義語:壊疽性鼻炎lethal midline granuloma,進行性壊疽性鼻炎progressives malignes Granulom,悪性正中肉芽腫granulome malin me´diofacial, granulome malin de Stewart

 

鼻腔またはその周辺に壊疽性,肉芽腫性病変を生じ,高熱を伴って次第に顔面,口蓋,咽頭に進展する疾患のうち,悪性リンパ腫とウェゲナー肉芽腫症*

ウェゲナー肉芽腫症

ウェゲナーニクゲシュショウ

【英】Wegener granulomatosis

【独】WegenerGranulomatose

【仏】granulomatose de Wegener

 

病理学的に,1 上気道あるいは下気道の壊死性肉芽腫性病変,2 肺を主とする全身諸臓器の小動静脈の壊死性血管炎,3 糸球体腎炎,を三大徴候として,尿毒症か呼吸不全による死亡をみる疾患であるが,腎病変を欠き,肺に限局する不全型もある.症状は難治性の鼻炎,副鼻腔炎*

副鼻腔炎

フクビクウエン

【英】sinusitis

【独】Sinusitis

【仏】sinusite

【ラ】sinusitis

 

急性と慢性とがある.症状としては鼻症状(鼻閉,鼻漏)のほかに随伴症状(頭痛,頭重,顔面痛)がある.中鼻道に開口する副鼻腔(前頭洞,前部篩骨蜂巣,上顎洞)の組み合わせが最も多い.ある単一の副鼻腔のみの炎症を単洞性といい,上顎洞に多発する.左右のいずれかに限局するものを片側性という.一般の慢性副鼻腔炎は両側性である.単洞性または片側性の副鼻腔炎は両側性に比較して治療に対する反応が良好で治癒しやすい.→急性副鼻腔炎

に続いてせき,血痰,胸痛さらに発熱,体重減少,腎不全徴候を呈してくる.肺には種々の大きさの壊死性肉芽腫性病変が多発し,胸部X線写真上では肺結核や転移性肺腫瘍とまぎらわしい結核性陰影が出現し,1/21/3の例では空洞化して薄壁の円形陰影をみる.肺炎様陰影,血性胸水などもみられる.皮疹,関節痛,頭蓋骨・副鼻腔の骨破壊,眼球炎などを呈する場合もある.病因は不明であるが,自己免疫的機序に基づく結合組織病*と目されており,III型アレルギー因子とIV型アレルギーの因子が考えられている.数ヵ月から12年で死亡する例の多い予後不良の疾患であるが,副腎皮質ホルモン*(ステロイド),シクロホスファミド*,アザチオプリン*などによる早期治療で生存期間が延長されてきている(Friedrich Wegenerはドイツの病理学者,1907生).

を除いたもの.病理組織学的にはリンパ球,組織球浸潤を伴った壊死像が主体で,これらの浸潤細胞が腫瘍性性格をもつものか,反応性の増殖にすぎないのか明らかにされていない.本症の本態を悪性組織球症malignant histiocytosis,あるいはT細胞性リンパ腫*とする意見もある.2040歳代に発症するまれな疾患で,男性にやや多い.鼻閉,悪臭を伴った血性鼻漏,鼻出血,3840℃の弛張熱などで発症し,下鼻甲介,鼻中隔に壊死を生じ,骨露出をみるにいたる.壊死はさらに硬口蓋,顔面皮膚に及ぶ.非連続的に咽頭,喉頭に壊死性病変をみることも少なくない.リンパ節の腫脹を認めないのが特徴とされる.検査所見では赤沈の亢進が認められることもあるが,その他の変化は著明でない.症状の進行が速く,その一方で病理診断の確定が困難なことが多いので,現時点では悪性リンパ腫に準じた照射,化学療法の併用療法をできるだけ早く開始すべきと考えられる.

 

悪性正中肉芽腫(致命的正中肉芽腫)の概要

悪性正中肉芽腫は,現在では「節外性NK/T細胞リンパ腫(鼻型)」として分類されるEBV関連の悪性リンパ腫です。顔面正中部の軟部組織や上気道に壊死性病変を生じ,急速に進行するのが特徴です。

定義と分類

  • WHO分類:節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型
  • 従来呼称:致命的正中肉芽腫/midline lethal granuloma
  • 発生部位:鼻腔,副鼻腔,上咽頭,口腔正中部など

疫学・背景

  • 好発:東アジア(日本を含む),中南米
  • 年齢:3050歳代に多い
  • 性差:男性優位
  • 病因:EBVEpstein–Barr virus)感染が関与

病態生理

  • NK細胞または細胞表現型を示すT細胞の腫瘍性増殖
  • 血管周囲・血管壁侵襲を伴い,壊死・潰瘍を引き起こす
  • EBV陽性腫瘍細胞はE BER in situ hybridizationで検出

臨床所見

  • 鼻閉,鼻出血,膿性鼻漏
  • 顔面正中部の潰瘍性病変・組織欠損
  • 浸潤による眼周囲浮腫,顔面神経麻痺
  • 全身症状:発熱,体重減少,やせ細り など

診断アプローチ

  1. 画像検査
  • CT/MRI:骨破壊や軟部組織浸潤の評価
  • PET-CT:病期診断と全身検索
  1. 内視鏡下生検
  • 壊死領域だけでは不十分
  • 壊死縁辺の腫瘍性細胞を含む組織採取が必須
  1. 病理組織学的所見
  • 血管周囲・血管壁の浸潤・破壊
  • 大型の異型リンパ球,壊死巣
  • EBER陽性(EBV感染を証明)
  1. 免疫組織化学
  • CD56陽性
  • 細胞質CD3ε陽性,T細胞マーカー(CD2, CD3
  • T-cell receptor遺伝子再構成は陰性(NK細胞型)
  1. 病期分類
  • Ann Arbor分類をNK/T細胞リンパ腫特有の指標で修正
  • IE(局所限局病期)~IV期(多臓器病期)

治療戦略

病期

治療内容

IE–IIE(限局期)

放射線療法(50 Gy以上)+非アントラサイクリン系併用化学療法

III–IV期(進行期)

SMILEレジメン(Steroid Methotrexate Ifosfamide L-Asparaginase Etoposide)など

再発・難治例

増強化学療法+自家末梢血幹細胞移植を検討

  • 放射線単独でも奏効することがあるが,再発率低減には化学療法併用が必須
  • アントラサイクリン系薬剤抵抗性のためSMILEDeVICなどが標準
  • EBV-DNA量のモニタリングで奏効判定・再発早期検出に応用

予後とサーベイランス

  • 限局期:5年生存率5060 %程度
  • 進行期:5年生存率20 %前後
  • フォローアップ:治療終了後も半年~年単位でPET-CTEBV-DNAを測定

さらに詳しい化学療法レジメン副作用の管理や,治療中の支持療法についてもご要望があればご案内します。

化学療法レジメン副作用管理と治療中支持療法

悪性正中肉芽腫(NK/T細胞リンパ腫鼻型)で用いられる代表的なSMILEレジメン(Steroid, Methotrexate, Ifosfamide, L-Asparaginase, Etoposide)を例に、副作用管理・支持療法の要点をまとめます。

1. 腫瘍崩壊症候群(TLS)予防

  • 投与前より十分な輸液(1.5–2L/日以上)と尿アルカリ化を実施
  • 高尿酸血症にはアロプリノールまたはラスブリカーゼを併用

2. 骨髄抑制対策

  • グラン(G-CSF)を第1回投与後24–48時間で開始し、好中球減少を予防
  • 貧血・血小板減少には輸血(赤血球、血小板)をヘモグロビン7–8g/dL以下、PLT1–2/μL以下で検討

3. 嘔気・嘔吐制御

  • トリプル抗悪心療法:5-HT3拮抗薬+NK1拮抗薬+デキサメタゾン
  • 投与前・投与後スケジュールに沿った予防投与が推奨

4. 口腔粘膜炎ケア

  • 毎食後のうがい(生理食塩水またはベンザダイン)
  • 必要に応じて低出力レーザー療法や粘膜保護コーティング剤を使用

5. イホスファミドの出血性膀胱炎予防

  • MESNA併用と大量輸液で尿路粘膜を保護
  • 尿の色・血尿を定期モニタリング

6. 高用量メトトレキサート管理

  • 充分な水分補給+尿アルカリ化のもとで投与
  • 血中MTX濃度に応じたロイコボリン救援を実施

7. L-アスパラギナーゼ特有の合併症対策

  • 投与前プレメディケーションとしてステロイド+抗ヒスタミン剤
  • 肝機能・膵酵素・凝固系(フィブリノゲン)を毎回チェックし、低下時はクリオプレシピテートや凝固因子製剤を投与

8. 感染症予防

  • ニューモシスチス肺炎:SMX-TMPの予防投与
  • ヘルペス再活性化:アシクロビルやバラシクロビル
  • 真菌感染リスク高値時はカンジダ・アスペルギルスカバーも検討

9. 代謝・内分泌管理

  • ステロイド誘発性高血糖の血糖自己測定とインスリン調整
  • 電解質(Na, K, Ca, Mg)の定期モニタリングと補正

10. 栄養・心理社会的サポート

  • 体重減少予防に初期から栄養士介入
  • J-SUPPORTによる患者家族支援・心理ケア体制の導入

これらを含めた詳細なプロトコール(投与スケジュールや用量、モニタリング頻度、エビデンスレベル)は、ご希望に応じてフローチャートやチェックリスト形式でお示しできます。必要でしたらお知らせください。

【参考文献】

  1. がん化学療法レジメン管理マニュアル 第4
  2. がん領域の支持療法:現状と課題(J-SUPPORT, JASCC編)