悪性神経鞘腫
アクセイシンケイショウシュ
【英】malignant
neurilemoma, malignant neurinoma
悪性シュワン腫malignant
schwannomaとも呼ばれるシュワン細胞由来の紡錘形細胞肉腫で,末梢神経あるいは神経線維腫*
神経線維腫
シンケイセンイシュ
【英】neurofibroma
神経鞘腫*neurilemoma, シュワン腫schwannomaとならんで末梢神経から発生する代表的な良性腫瘍である.以前は線維神経腫fibroneuromaともいわれた.好発年齢は20~40歳で身体各所の真皮および皮下組織に無痛性の硬い腫瘤として認められる.組織学的には細長いSchwann細胞と線維芽細胞*
線維芽細胞
センイガサイボウ
【英】fibroblast
【独】Fibroblast
【仏】fibroblaste
【ラ】fibroblast
同義語:線維芽球
疎性結合〔組〕織の細胞成分のうちで最も重要なもので,膠原線維*
膠原線維
コウゲンセンイ
【英】collagenous fiber, collagen fiber
【独】kollagene Faser
【仏】fibre collage`ne
主として線維性結合〔組〕織の細胞間質中にみられる線維で,それら組織の固有細胞によって細胞外に形成される.軟骨組織,骨組織などにもみられる.きわめて強い抗張性をもち,反面,伸長性には乏しい.太さは一定しないが直径20~100nmの膠原原線維の束であることが知られ,これには約70nmの間隔で横縞がみられる.膠原線維を互いに結合する物質はトリプシン*で消化される.線維そのものはトリプシンで消化されないがペプシン*で消化され,また弱酸・弱アルカリで膨潤し消失する.煮沸するとゼラチンを生ずる.コラゲナーゼ*で容易に消化される.線維はタンパク質のコラーゲン*からなり,コラーゲンは細胞内ではトロポコラーゲンと呼ばれる単量体のかたちで合成され,細胞外に出て重合し線維状となる.コラーゲンを構成するアミノ酸の一つにヒドロキシプロリンがあり,これがほぼ特異的にコラーゲンにのみ組み込まれているので,コラーゲンの定量の指標とされる.かつて別種の線維とされた格子〔状〕線維*は,同じ幅の横縞を有すること,コラーゲンと同じ抗原性をもつこと,膠原線維も幼若なものには嗜銀性がみられること,などの理由から,今日では膠原線維と同じか,または類似のものと考えられている.一般に年齢とともに生体内のコラーゲン量は増え,老化の機構と関連して注目されている.
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を生成する.光学顕微鏡的には紡錘形をした細胞で,1,2個の核小体*を入れた卵円形の核をもち,電子顕微鏡的には胞体内によく発達した粗面小胞体*をもっているのが特徴的である.貪食能ならびに運動性はないといわれているが,肉芽組織中の線維芽細胞には収縮タンパクが証明され,組織の収縮に関与すると考えられる.線維芽細胞は間葉より分化し,刺激が加わると,粗面小胞体やGolgi体の増大と特殊顆粒の形成などが起こって,膠原線維を産生するようになる.膠原線維を生成し終わった線維芽細胞は,線維束の中に埋まってその活動を停止し,線維細胞fibrocyteとなる.線維細胞になったものは,核は濃縮して小型となり,胞体も乏しい.膠原線維の形成機序としては,細胞内で合成されたprocollagenが細胞外へ分泌されてtropocollagen(collagen分子)となり,それが架橋されて膠原線維が形成される.
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とからなり,膠原線維を混じえて相互にからみ合いながら波状に配列し増生する.神経鞘腫と違って被膜は有さず,また二次的な石灰化,出血,嚢胞状の変性巣を伴うこともまれである.孤立性のものと全身の皮膚に多発する神経線維腫症*neurofibromatosisとに分けられるが,前者が90%を占め,後者はvon Recklinghausen病(多発性神経線維腫症*)に相当するものである.個々の腫瘍結節の組織像からこの両者を区別することはできない.なお,特殊な神経線維腫のタイプとして蔓状型,Pacini型,類上皮型,色素型がある.
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から発生する.成人に発生する腫瘍で上下肢の近位および体幹に好発し,神経鞘腫*
神経鞘腫
シンケイショウシュ
【英】neurilemoma,
neurinoma
【独】Neurilemom,
Neurinom
【仏】neurinome
シュワン腫schwannomaとも呼ばれ,線維性被膜に囲まれた良性の病変で,組織学的には紡錘形細胞と線維が豊富で核の柵状配列palisadingの目立つ成分(Antoni A型)と,細胞および線維に乏しい疎な部分(Antoni B型)とからなる.臨床的にはあらゆる年齢層に生じるが,20~50歳に多い.頭頚部,四肢の伸側に好発する.後縦隔や後腹膜に発生することもある.通常は単発性であるがまれには多発し,フォンレックリングハウゼン病von Recklinghausen disease(神経線維腫*)に合併する場合もある.肉眼的には腫瘍は,神経鞘内に発生するため,神経外膜からなる被膜で囲まれている.大きな神経内に生じた場合は神経内に偏在性に存在する.腫瘍は通常は直径5cmくらいの大きさであるが,後腹膜や縦隔に生じた場合は相当に大きな腫瘤を形成する.大きな病変では嚢胞形成や石灰化などの二次的な変性が起こっていることが多い.組織学的には前述のようにAntoni A型とB型の像を有することが特徴であるが,A型のみからなる場合もある.前述のような核の柵状配列のほかに,細胞と線維のうずまき状の配列が特徴である.Antoni B型のところでは,嚢胞変性や不整の大きな血管や炎症細胞浸潤がみられ,時には腫瘍全体が血管腫のようにみえることがある.軽度の核異型や少数の核分裂像を伴う場合もある.電顕的には神経線維腫とは異なり,神経鞘腫はシュワン細胞のみからなる.腫瘍細胞には細長い突起が目立ち,細胞は基底膜で囲まれている.腫瘍細胞間にはしばしばlong‐spacing collagenがみられる.免疫組織化学的にはS‐100タンパク*
S‐100タンパク〔質〕
エスヒャクタンパクシツ
【英】S‐100 protein
S‐100タンパクはウシ脳より発見された100%飽和硫安に可溶な酸性タンパクacidic proteinで,カルシウム結合能を有し,α鎖とβ鎖のサブユニット組成をもつ.このタンパクはグリア細胞,シュワン細胞などの神経細胞ばかりでなく, 母斑細胞, ランゲルハンス細胞, interdigitating reticulum cell,軟骨細胞,汗腺の筋上皮細胞とエクリン汗腺分泌部基底細胞に存在する.そのため,上記部位の腫瘍マーカー*tumor marker
腫瘍マーカー
シュヨウマーカー
【英】tumor
marker
【独】Tumormarker
【仏】marqueur
de tumeur
悪性腫瘍*から高い特異性をもって産生されるが,正常細胞や良性疾患ではほとんど作られない物質で腫瘍診断に役立つものをいう.厳密に腫瘍のみに特異的な物質は知られていないが,腫瘍マーカーは腫瘍の早期診断,臨床経過の追跡,予後の判定などに有用である.この中には,胎児期に作られるが,成熟個体では腫瘍によって作られる物質(α‐fetoprotein, carcinoembryonic
antigen(CEA), basic
fetoprotein, pancreatic oncofetal protein),正常細胞にもあるが,腫瘍細胞から大量に作られ,または遊離されるもの(ミエローマタンパク,isoferritin, β2 microglobulin, pregnancy‐associated α2 glycoprotein),異所性ホルモン(絨毛性ゴナドトロピン*(HCG), ACTH*, ADH*, PTHなど),および,さまざまなアイソザイム*(アルカリホスファターゼ,アミラーゼ*,γ‐glutamyltranspeptidase(γ‐GPT),アルドラーゼ*,酸ホスファターゼ)などがある.→腫瘍関連抗原
腫瘍関連抗原
シュヨウカンレンコウゲン
【英】tumor‐associated antigen(TAA)
【独】tumorassoziertes Antigen
【仏】antige`ne associe´e a` tumeur
腫瘍抗原には,組織適合抗原*など正常細胞にも表現されているものと,真に腫瘍特異的な腫瘍特異移植抗原(TSTA;tumor‐specific transplantation antigen)が区別されているが後者は少ない.厳密に腫瘍特異的ではないが,ある種の腫瘍に比較的特異的に発現し,診断上有用なものを腫瘍関連抗原と呼んでおり,胎児抗原であるCEA(癌胎児性抗原*)や,リンパ球分化抗原であるCALLA(common acute lymphoblastic leukemia antigen)などがその例である.最近ハイブリドーマ*技術によって,腫瘍関連抗原を認識する多数の単クローン抗体*が得られるようになった.
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として用いられる.
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陽性である.
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が頭頚部に好発するのとは異なっている.フォンレックリングハウゼンの神経線維腫症に合併する症例は悪性シュワン腫の半分以下とされている.肉眼的には末梢神経と密接な関係にあるのが特徴であり,フォンレックリングハウゼン病von Recklinghausen's diseaseでは神経線維腫内に発生する.組織学的には線維肉腫に類似した紡錘形細胞肉腫の像を示すが,核の形がより不整で,波状,帯留様あるいはコンマ状を呈することがある.細胞と線維がうずまき状に並んだり,核の柵状配列や細胞成分に乏しい粘液腫様の像を示すことがある.また成熟した骨や軟骨,まれには重層扁平上皮などの異所性組織が認められるのが特徴である.しかし悪性シュワン腫の診断根拠としては,末梢神経あるいは神経線維腫から発生した肉腫ということ以外に一般的に受け入れられた基準はない.電子顕微鏡的には細長い細胞突起とmicrotubulesおよびneurofilamentsの存在,細胞突起間の接着装置,基底膜,細胞間のlong‐spacing collagenの存在などが特徴とされている.免疫組織化学的にS‐100タンパクが陽性となる症例もある.悪性シュワン腫の特殊型として,横紋筋への分化を伴った悪性Triton腫瘍,腺管形成を伴う悪性シュワン腫,腫瘍細胞が上皮様を呈する悪性上皮様シュワン腫などがある.
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