悪性症候群

アクセイショウコウグン

【英】malignant syndrome

【仏】syndrome malin

 

悪性症候群は,向精神薬psychotropic drugs治療中の重篤な副作用として1956年に報告された.主要症状は,原因不明の高熱,発汗,頻脈,唾液分泌過多症*

唾液分泌過多症

ダエキブンピカタショウ

【英】sialorrhea, ptyalism

【独】Speichelfluss, Polysialie

【仏】sialorrhe´e, ptyalisme

同義語:流涎症,よだれ症salivation,流唾

 

異常に唾液分泌の亢進する状態.唾液分泌反射に関与する末梢因子の障害か,分泌中枢の障害によって生じる.末梢性にはヘルペス性のアフタ性潰瘍,義歯不適合時などに認められる.中枢性ではヨード,水銀塩,アンモニウムなどの薬物中毒あるいはパーキンソン病やてんかんのような精神神経科的疾患にみられる.一方,嚥下障害に起因する口外への唾液流出は仮性流涎症pseudosialorrheaと呼ばれる.〔治療〕 原疾患に対する処置と抗コリン薬投与.

,血圧の変動などの自律神経症状,筋強剛,無動無言,振戦*

振戦

シンセン

【英】tremor

【独】Tremor

【仏】tremblement

 

ある関節を中心として起こる拮抗筋の間にみられる相反性の律動的な不随意運動で,一般には“ふるえ”と表現される異常運動である.わずかな振戦は健常人にも認められ,生理的振戦physiological tremorと呼ばれる.病的な振戦は一般に,その出現する状況により分類される.静止時振戦*resting tremor(安静時振戦tremor at rest)は

静止時振戦

セイシジシンセン

【英】resting tremor, tremor at rest

【仏】tremblement de repos

同義語:安静時振戦,休止時振戦

 

手を膝の上に軽く置いたようなとき,すなわち筋が活動していない状態で出現する振戦*で,36 Hzの比較的ゆっくりしたリズムのことが多い.精神的緊張,疲労時などに増強し,睡眠時には消失する.パーキンソン病*に典型的にみられる.パーキンソン病の振戦は,上肢,とくに手指に出現することが多いが,下肢から首や顔面に広がることもある.手指にみられる場合は,母指と示指の腹を擦り合わせるような運動となり,“丸薬をまるめる”ような振戦pill rolling tremor(丸剤製造様運動*)

丸剤製造様運動

ガンザイセイゾウヨウウンドウ

【英】pillrolling movement

【独】pillendrehende Bewegung

同義語:銭勘定様運動Mu¨nzenza¨hlenbewegung

 

パーキンソン症候群(パーキンソニズム)は振戦,固縮,無動の三主徴を伴う錐体外路疾患で脳内ドパミン,ニューロン系の障害によるものと考えられる.本症候群でみられる振戦はきわめて特徴的で,静止性振戦で,四肢末梢とくに手指や顔面に36cps/secの比較的粗大運動として認められ,手指ことに第1, 2, 3指が屈曲位であたかも紙弊を数えるときの指先の動き,または丸薬を丸めて造るときの運動に類似することからこの呼称がある.これらの振戦運動は精神緊張により増強し,睡眠中は消失するのが一般である.〈1997

と表現されることもある.首にみられる場合は,うなずきを繰り返すような前後方向の運動のことが多い.

,手を膝の上に軽く置いたときなど,筋が活動していない状態で出現する振戦で,36 Hzの比較的ゆっくりしたリズムが多い.パーキンソン病*に典型をみる.姿勢時振戦*postural tremorは,上肢を前方に挙上した状態に保つときのように,筋がある一定の強さの持続的な活動を行っているときに出現する振戦である.412 Hzと広い範囲の活動を示す.本態性振戦*essential tremorに典型的で比較的速いものが多い.動作時振戦action tremorあるいは運動時振戦kinetic tremorは,物を取ろうと手を伸ばしたときなど,筋が随意的な活動を行っている状態で出現する振戦.小脳の障害で生じる.

などの錐体外路症状,嚥下困難,失声,意識障害である.検査では,白血球増多,高クレアチンキナーゼ血症,血清鉄低下,ミオグロビン尿などをきたす.致死率は,20%前後である.精神分裂症,躁うつ病などの治療で用いられる向精神薬(ハロペリドール,クロルプロマジンなど),抗てんかん薬,あるいは抗パーキンソン病薬antiparkinsonian drugなどの中断でも起こる.治療として,ブロモクリプチン,ダントロレン,輸液,抗パーキンソン病薬などを使用する.病態生理として脳内のド〔ー〕パミン系とセロトニン系,あるいはアセチルコリン系,GABA系などの不均衡が考えられている.骨格筋の異常を伴うことがあり,悪性高体温症*との異同が問題である.