悪性新生物
アクセイシンセイブツ
【英】malignant neoplasm
=悪性腫瘍
悪性腫瘍 アクセイシュヨウ 【英】malignant tumor 【独】bo¨sartige Geschwulst,maligner Tumor 同義語:悪性新生物malignant neoplasm
腫瘍(新生物)を良性腫瘍と悪性腫瘍に二大別し後者をいう.悪性腫瘍はさらに,上皮性悪性腫瘍と非上皮性悪性腫瘍に分類する.前者を癌*
または癌腫,後者を肉腫*
と呼ぶ.すなわち,悪性腫瘍は主として癌と肉腫からなる.ただし,一般の人を対象にする場合は,癌という言葉は悪性腫瘍の意味で使用する.したがって,癌研究,癌センターなどは悪性腫瘍全体の研究や診断・治療を行うことを意味する.悪性腫瘍は良性腫瘍と異なり,放置すれば次第次第に増大して周囲の組織に浸潤していく.これを浸潤性増殖という.悪性腫瘍は腫瘍そのものを切除するのみならず,そのまわりの組織も共に切除する必要がある主な理由である.悪性腫瘍の多くは遅かれ早かれ転移をきたす.この場合,腫瘍の近くのリンパ節にリンパ行性に転移したり,他の臓器,例えば肝・肺などに血行性に転移する.胃癌*の場合は腹腔に癌細胞*が散布されることも少なくない.この転移の形式を播種*という.悪性腫瘍の性格によって,転移を早期に起こすものもあれば,非常に進行しても転移をきたさないものもあるが,一般には腫瘍が進行すればするほど転移する率が高くなる.転移の予防あるいは転移巣の治療が完全に可能となれば,悪性腫瘍はそれほど恐ろしい病気でなくなるので,そのメカニズムの研究や予防・治療の進歩が望まれる.悪性腫瘍と良性腫瘍の境界を良性悪性境界領域病変,あるいは単に境界病変borderline lesionと呼ぶ.また,悪性腫瘍のうち悪性度の低いものを低悪性の腫瘍tumor of low grade malignancyと呼び,予後は良好である.これに対し悪性度の高いものを,高度悪性の腫瘍highly malignant tumorと呼び,予後は一般に不良である. 悪性新生物(マリグナントネオプラスム)とは 悪性新生物は,体内で発生した細胞が遺伝子異常などを契機に自律的かつ過剰に増殖し,周囲の正常組織を侵襲・破壊するとともに,血液やリンパ管を介して遠隔部位へ転移する腫瘍性疾患の総称です。
特徴 • 自律的増殖 正常な細胞増殖の制御機構から逸脱し,成長シグナルに依存せず増殖を続ける。 • 浸潤(いんじゅん)と転移 腫瘍細胞が基底膜や周囲組織を越えて浸潤し,さらに血管・リンパ管を介して他臓器に播種する。 • 細胞の異型性 核分裂が活発で核小体が発達し,正常細胞とは異なる形態を示す。 • 周囲正常組織への破壊 腫瘍周辺の血管や神経を巻き込み,臓器機能を障害する。
原因 悪性新生物の発生には以下のような要因が関与します。 • 遺伝子変異 細胞増殖を促進する“がん遺伝子”や増殖抑制を担う“がん抑制遺伝子”の異常。 • 環境要因 発がん性化学物質(例:タバコの発がん物質),ウイルス感染(HBV,HPVなど),紫外線曝露。 • 生活習慣 過剰な飲酒,偏った食事,運動不足など。
主な分類 悪性新生物は起源と組織型に応じて大きく次の4つに分類されます。
臨床症状 悪性新生物の症状は発生部位や進行度により多彩ですが,代表的なものには以下があります。 • 原発部位のしこり・痛み • 持続する発熱や体重減少 • 出血や貧血,黄疸などの全身症状 • 転移部位に応じた神経障害や呼吸困難
診断と治療の概要 1. 診断 • 画像検査(CT,MRI,PETなど) • 腫瘍マーカー測定 • 生検(病理組織診断) 2. 主な治療法 1. 外科手術:原発巣や転移巣の切除 2. 化学療法:抗がん剤による全身治療 3. 放射線療法:局所的な細胞破壊 4. 免疫療法・分子標的治療:新規の薬剤や抗体を用いた療法
悪性新生物にまつわる最新トピック • 免疫チェックポイント阻害薬による腫瘍免疫療法の進歩 • 微小環境(腫瘍マイクロエンバイロメント)制御を狙った新戦略 • 液体生検(血液中循環腫瘍DNA)の臨床応用 • AIを活用した画像診断精度の向上 • 個別化医療(プレシジョンメディシン)による最適化治療 これらのテーマは,従来の外科・化学・放射線治療と組み合わせて,個々の患者に最適な治療を探るうえで注目されています。
主な治療法 悪性新生物の治療の柱は、原発巣や全身への作用をめざした以下の4つです。 • 外科手術 • 化学療法 • 放射線療法 • 免疫療法・分子標的療法
1. 外科手術 外科手術は腫瘍を物理的に切除し、根治を目指します。 • 目的 • 原発巣の完全切除 • 周囲組織への浸潤の除去 • 適応 • 局所進行度が手術可能な段階 • 悪性度や転移状況によって選択 • 特徴 • 即効性が高い • 組織学的診断にもつながる • 主な副作用・合併症 • 出血、感染 • 手術部位の機能障害
2. 化学療法 抗がん剤を用いて全身に広がったがん細胞を制御します。 • 目的 • 転移巣の縮小・制御 • 術前化学療法で腫瘍縮小を図り、術後の再発を抑制 • 投与法 1. 点滴静注 2. 経口投与 • 特徴 • 全身効果が得られる • 多剤併用でシナジーを狙う • 主な副作用 • 骨髄抑制(白血球減少など) • 悪心・嘔吐、脱毛
3. 放射線療法 高エネルギーの放射線で腫瘍細胞を局所的に破壊します。 • 目的 • 局所腫瘍の縮小・制御 • 術後の局所再発予防 • 施行法 • 外照射(体外から照射) • 腔内照射(腔内に線源を挿入) • 特徴 • 選択的に腫瘍部位へ照射可能 • 他治療との組み合わせが一般的 • 主な副作用 • 皮膚障害(照射部位の紅斑など) • 粘膜炎、放射線肺炎
4. 免疫療法・分子標的療法 がん細胞固有の分子機構や免疫チェックポイントを標的にします。
次に知っておきたい関連トピック • 副作用管理と生活の質(QOL)向上のためのサポート療法 • 遺伝子パネル検査を活用したプレシジョンメディシン • 液体生検による治療モニタリングと早期再発検出 • CAR-Tや遺伝子治療などの革新的アプローチ • 緩和ケア・リハビリテーションの統合的実践 これらを押さえることで、がん治療の最前線をより深く理解できます。
治療法別の主な副作用 悪性新生物に対する代表的な治療法ごとに、よく見られる副作用をまとめました。
1. 外科手術の副作用 • 麻酔関連 全身麻酔による血圧変動、呼吸抑制、術後の吐き気。 • 出血・血栓 手術中・術後の過度な出血や、深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症のリスク増大。 • 感染症 創部感染、肺炎、尿路感染など。免疫低下状態で起こりやすい。 • 機能障害・後遺症 切除部位に応じて運動障害や感覚障害、臓器機能の低下が残ることがある。
2. 化学療法の副作用 • 骨髄抑制 白血球(特に好中球)や血小板・赤血球の減少による感染リスク増大、貧血。 • 悪心・嘔吐 抗がん剤投与後数時間以内に始まる急性型、数日後の遅発型まで。 • 粘膜障害 口内炎・咽頭炎、消化管のびらんや下痢、便秘。 • 脱毛 頭髪のみならず、全身の体毛が一時的に脱落。 • 末梢神経障害 手足のしびれ、疼痛、感覚鈍麻(プラチナ製剤やタキサン系で多い)。 • 臓器毒性 心毒性(アントラサイクリン系での心機能障害)、腎毒性(シスプラチン)、肝障害など。
3. 放射線療法の副作用 • 皮膚障害 照射部位の紅斑、乾燥、かゆみ、びらん。 • 粘膜炎 頭頸部治療での口内炎や咽頭炎、食道炎。 • 全身疲労感 治療中〜終了後しばらく続く倦怠感。 • 放射線肺炎 胸部照射後に咳嗽、呼吸困難、発熱が出現することがある。
4. 免疫療法・分子標的療法の副作用
これらの薬剤特有の免疫関連有害事象(irAE)は、早期発見・コルチコステロイドなどでの迅速な対応が重要です。
次に知っておきたい管理戦略 • 副作用予防薬(制吐薬、骨髄刺激因子)の併用 • 電解質・水分管理、腎保護を意識した輸液療法 • 皮膚・粘膜ケア(保湿、うがい薬、口腔ケアチームとの連携) • 栄養サポート(食欲不振時の経腸栄養、補助食品) • 緩和ケアチームとの協働でQOLを維持 これらを組み合わせることで、副作用を最小化しながら治療を継続する道筋が得られます。 副作用軽減の基本戦略 がん治療の副作用を軽減し、治療を継続しやすくするためには、「予防」「早期発見」「適切な対処」の3ステップを組み合わせます。各治療法別の具体的な軽減策を以下にまとめました。
1. 化学療法(抗がん剤)の副作用軽減 • 骨髄抑制対策 • G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の投与による白血球減少予防 • 鉄剤やビタミンB₁₂補給による貧血対策 • 手洗い徹底やマスク装着による感染予防 • 悪心・嘔吐対策 • 5-HT₃受容体拮抗薬+NK-1受容体拮抗薬+ステロイドの併用制吐療法 • 服薬のタイミングを整え、少量ずつ回数多めに食事をとる • プレメディケーションとして制吐薬を事前投与 • 粘膜障害対策 • 生理食塩水やうがい薬によるこまめなうがい • 口腔ケアチームによる保湿ジェル・スプレーの使用 • 低残渣(やわらかい)食の摂取で消化管のびらんを予防 • 末梢神経障害対策 • 抗がん剤点滴前後の冷却療法(手足冷却) • ビタミンB群の内服補給 • 軽いマッサージやストレッチで血流改善
2. 放射線療法の副作用軽減 • 皮膚障害対策 • 照射部位への低刺激保湿クリーム塗布 • 緩和ケア外来でのドレッシング交換 • 患部をこすらず、ゆったりした衣服を着用 • 粘膜炎対策 • 生理食塩水うがいを1日数回実施 • リドカイン含有スプレーによる局所麻酔 • 栄養士指導のもとで柔らかい食事を少量ずつ摂取 • 全身疲労感対策 • 毎日の軽いウォーキングやストレッチ • 十分な休息と昼寝で体力温存 • 心理的サポート(カウンセリング)の活用 • 放射線肺炎対策 • 水分をこまめに補給 • 咳止め薬や吸入ステロイドの早期使用 • 発熱や咳の増悪を速やかに報告
3. 免疫療法・分子標的療法の副作用軽減 • 免疫関連有害事象(irAE)対策 • 下痢や皮疹の初期兆候チェック • 中等度以上の症状でステロイド全身投与 • 皮膚症状なら局所ステロイド軟膏塗布 • 薬剤選択の最適化 • 副作用プロファイルの少ない薬剤への切り替え(例:シスプラチン→カルボプラチン) • 投与間隔の調整や投与量の減量検討 • 内分泌障害対策 • 定期的な採血で甲状腺・肝機能をモニタリング • 異常時のホルモン補充療法開始
4. 外科手術後の副作用軽減 • 血栓症予防 • 抗凝固薬の術後早期投与 • 弾性ストッキング装着+足関節運動 • 可能なら術後すぐの歩行開始 • 創部管理 • 無菌操作による創部ドレッシング交換 • 保湿パッドで乾燥やひび割れを防止 • 異常時の速やかな受診指導 • 感染予防 • 予防的抗菌薬投与(適応に応じて) • 口腔・尿路ケアも含めた全身的な感染管理
5. 全体を通した支持療法・生活指導 • 栄養サポート • 高たんぱく高エネルギーの少量頻回食 • 経腸栄養や補助食品の活用 • 水分管理 • スポーツドリンクや補液で電解質バランスを維持 • 脱水時の早期輸液検討 • 運動・リハビリ • ストレッチ、ウォーキング、理学療法士指導のリハビリ • 身体機能低下の予防・回復 • 心理社会的支援 • がんサロンやカウンセリングの利用 • 家族とのコミュニケーション強化 • 補完・代替療法の併用 • マッサージや鍼灸による鎮痛・血流改善 • 音楽療法やアロマテラピーでストレス緩和 これらを治療チームと綿密に連携しながら実践することで、副作用を最小限に抑えつつ、生活の質を維持しやすくなります。 さらなるトピックとして、個別化医療における遺伝子パネル検査活用や、液体生検による副作用モニタリングについても併せてご検討ください。 副作用軽減のための食事のポイント がん治療中は副作用により食欲不振や味覚変化、粘膜障害などが起こりやすく,「食べること」自体が大きな負担になります。ここでは主な症状別に、取り入れやすい食事の工夫をまとめました。 1. 全体の栄養管理目標
2. 症状別の具体的アドバイス 食欲不振・味覚変化時
悪心・嘔吐時
口内炎・粘膜障害時
下痢・便秘時
3. 食事環境と摂取方法の工夫
管理栄養士・補助食品の活用 専門の管理栄養士と連携し,個別の食欲や副作用プロファイルに合わせたメニュー作成や,液体栄養補助食品の導入を検討すると,より確実に栄養状態を維持できます。 がん治療中の食事は,計画的な栄養管理と小さな工夫の積み重ねで「食べる楽しみ」を守りながら副作用を和らげることが可能です。専門家と相談しつつ,ご自身の体調に合わせて柔軟に取り入れてみてください。 【参考】
治療中の体重管理のポイント 治療中の体重管理は,体重そのものだけでなく筋肉量の維持・増加を目標とし,「悪液質」の進行を抑えることが重要です。以下の項目を押さえて実践しましょう。 エネルギー・たんぱく質摂取の目安
これらは「1日あたり体重1 kgあたりの必要量」を示したもので,少なくともこの範囲をクリアするよう心掛けてください。 体重・体組成のモニタリング
食事の工夫
運動・リハビリによる筋肉量維持
専門家との連携
副作用や治療ステージに応じて食事・栄養管理法を柔軟に調整し,体重と筋肉量の維持を目指しましょう。各項目についてさらに詳しいアドバイスが必要な場合は,ぜひ担当の管理栄養士や医療チームとご相談ください。 参考文献
|