悪性ミュラー管混合腫瘍
アクセイミュラーカンコンゴウシュヨウ
【英】malignant Mu¨llerian mixed tumor
→中胚葉性混合腫瘍
中胚葉性混合腫瘍
チュウハイヨウセイコンゴウシュヨウ
【英】mesodermal
mixed tumor
同義語:ミュラー管混合腫瘍Mu¨llerian mixed tumor
ミュラー管*
ミュラー管
ミュラーカン
【英】Mu¨llerian duct
【独】Mu¨ller‐Gang
【仏】canal de
Mu¨ller
胎生第5~6週に至りウォルフ管*
ウォルフ管
ウォルフカン
【英】Wolffian
duct
【独】Wolff‐Gang
【仏】canal de
Wolff
【ラ】ductus
Wolffi
同義語:原腎管,中腎管mesonephric
duct
前腎,中腎(原腎)の尿管に相当するものがウォルフ管あるいは中腎(原腎)管である.脊椎動物では,胎生期には頚部からまず前腎つづいて胸部から中腎が出現する.前腎ないし中腎細管の先端が尾方に曲がり,互いに連結して縦走する一本の管となるものが中腎管の始まりとされ,こうして成立した中腎管は,尾方にどんどん伸びて排泄腔に合流する.中腎管の途中から尿管芽が伸び出すが,これが尿管の原基で,造後腎組織を誘導して後腎を形成し,自身は後腎の尿管,腎杯,集合管までを形成する.尿管芽の分岐部までの中腎管はやがて排泄腔に取り込まれ,中腎管と尿管は別々に排泄腔に開くようになる.その後の分化は男女で異なり,男では中腎管は,精細管と連絡して精巣上体管,精管,精嚢,射精管となり,尿道に開く.女では痕跡として残り,ガルトネル管*
ガルトネル管
ガルトネルカン
【英】Gartner's
duct
【独】Gartner‐Gang
【仏】canal
de Gartner
女性において胎生期の中腎Wolff管はしだいに消失するが,約20%では遺残しており,その尾部の遺残をガルトネル管という.子宮体部や頚部の側壁,腟側壁や腟周囲結合組織中に認められる.まれに,これより嚢胞が発生することがあり,ガルトネル嚢胞Gartner's cystsと呼ばれる(Hermann Treschow
Gartnerはデンマークの外科医,解剖学者,1785‐1827).
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Gartner's
ductと呼ばれ,処女膜までに達するとされる.さらに胞状垂,卵巣上体縦管も中腎管の痕跡の一部である(Kasper Friedrich Wolffはドイツの医師,1733‐1794).
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の両側に生ずる一対の管.これはウォルフ管の外方に沿って下り,下方においてその前を横切って左右接近し,ウォルフ管の内側において尿生殖洞に開口している.胎生8週になると左右のミュラー管は下方から癒合しはじめ,第12週頃までに癒合が完成し,癒合した部分から子宮,腟が形成され,癒合しない部分は卵管となる.したがって,その癒合の不全の程度により種々の子宮奇形を生ずる.
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Mu¨llerian ductの癒合により形成される子宮は,理論上は上皮系,間葉系の両方向への分化能力をもつ細胞からなり,上皮成分と間葉成分の混在からなる種々の腫瘍が発生する.これらを総称して中胚葉性混合腫瘍と呼ぶが,臨床的に重要なのは悪性中胚葉性混合腫瘍malignant mesodermal mixed tumor(MMMT)(悪性ミュラー管混合腫瘍malignant Mu¨llerian mixed tumor)である.これは子宮の全悪性腫瘍の1.5%以下を占めるにすぎないが,平滑筋肉腫*
平滑筋肉腫
ヘイカツキンニクシュ
【英】leiomyosarcoma
【独】Leiomyosarkom
【仏】le´iomyosarcome
【ラ】leiomyosarcoma
平滑筋*
腫瘍細胞
シュヨウサイボウ
【英】tumor
cell
【独】Tumorzelle,
Geschwulstzelle
【仏】cellules
tumorales
腫瘍を構成する細胞を腫瘍細胞というが,この際,腫瘍の部分である腫瘍間質を構成する細胞は含めない.すなわち腫瘍実質を構成する細胞である.腫瘍細胞は程度の差こそあれ異型*atypiaを示す.良性腫瘍細胞では異型性が少なく,正常細胞との差を見出すのに難しい場合もある.悪性腫瘍細胞,すなわち癌細胞*や肉腫細胞では異型性が強く,この異型性を利用して臨床的に細胞診*clinical cytologyが行われている.腫瘍細胞は遺伝子のレベルで変化をきたしその変化は不可逆なものと考えられている.
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由来の悪性腫瘍.子宮,消化管に多く,他に後腹膜,皮下軟部組織にも発生する.境界不明瞭な結節で,硬度はやや軟らかく,割面は灰白または灰褐色を呈す.組織学的には,紡錘形,好酸性の細胞質と先端が鈍化した細長い核を有する腫瘍細胞*が,束をなして交錯する.核の異型が目立ち,異型巨細胞出現,核分裂像もみられ,とくに核分裂像の頻度は,悪性像の判定に重要である.破壊,浸潤性に増殖し,転移は血行性で肺に多い.
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や子宮内膜間質肉腫よりも発生頻度は高く,閉経後の高齢女性に発生することが多い.広基性のポリープ状腫瘤が子宮内腔に突出するように生じ,その割面は充実性で柔らかく,出血・壊死を伴う.組織学的には悪性上皮性成分と悪性間葉成分(肉腫成分)の混在からなっており,上皮成分としては腺癌*が大部分である.肉腫成分は同所性のhomologous子宮内膜間質肉腫,平滑筋肉腫,線維肉腫*などに近似した像を呈し,また,それらに混じって横紋筋肉腫*,軟骨肉腫*,骨肉腫*,脂肪肉腫*などの異所性のheterologous肉腫成分が認められることもある.肉腫成分として同所性腫瘍成分からなるものを癌肉腫carcinosarcoma,異所性肉腫成分を含むものを狭義の悪性中胚葉性混合腫瘍として,区別して扱う分類もあるが,両者でその予後に差はみられないとする意見が多い.→混合腫瘍
悪性ミュラー管混合腫瘍(MMMT, Carcinosarcoma)の総論
定義と概念
悪性ミュラー管混合腫瘍(Malignant Müllerian Mixed Tumor:MMMT)は、上皮性腫瘍(carcinomatous component)と間葉系腫瘍(sarcomatous
component)が混在する稀な子宮体部腫瘍です。
かつては「子宮肉腫」として扱われましたが、最近の分子病理学的知見から上皮性腫瘍由来のメタプラスティック腫瘍と考えられ、臨床的にも高悪性度子宮癌に準じた管理が推奨されます。
疫学と臨床像
- 発生頻度: 子宮体部悪性腫瘍の約2~5%を占め、MMMT単独では1%以下の稀な疾患です。
- 年齢: 発症のピークは60歳以上と高齢女性に多いですが、50歳代から散見されます。
- 臨床症状:
- 過多月経・不正子宮出血
- 骨盤腫瘤感
- 腹部膨満感
はじまりは非特異的で、子宮内膜癌と同様の症状を示します。
病理・分類
MMMTは上皮成分と間質成分の組み合わせで分類され、WHO分類に沿って以下のように特徴付けられます。
- Homologous(同所性成分):子宮に由来する組織の腫瘍(平滑筋、間質性肉腫)
- Heterologous(異所性成分):子宮には通常存在しない組織(軟骨、骨格筋、脂肪組織)
発生機序(腫瘍起源理論)
- Combination tumor theory: 2種のクローンが同時に増悪
- Metaplastic (Conversion) theory: 上皮成分が間質性に転換
- Collision tumor theory: 異なる腫瘍が衝突
近年はメタプラスティック理論を支持するエビデンスが増えています。
進行度(FIGO分類)
MMMTは子宮体癌と同様にFIGO肉腫ステージ分類を用います。
- IA期:限局性(筋層浸潤なし)
- IB期:筋層浸潤あり
- II期:子宮頸部への浸潤
- III期:骨盤外進展(付属器、漿膜、リンパ節転移など)
- IV期:遠隔転移(膀胱、直腸浸潤、遠隔臓器)
ステージが進むほど予後不良で、I期の5年生存率は約50~60%、III期以上では20~30%に低下します。
治療戦略
手術療法
- 基本:子宮全摘術+両側付属器切除(TAH+BSO)
- リンパ節郭清:骨盤内および傍大動脈リンパ節
- 腹膜生検・(必要に応じて)大網切除
補助療法
- Ifosfamide+Paclitaxel
または Carboplatin+Paclitaxel
- 3~6コースの併用レジメンが標準
- 骨盤照射やヴァギナルトップブースト
- 局所制御の補助として有用
予後因子とフォローアップ
- 悪性間質成分の過剰増殖(sarcomatous overgrowth)
- リンパ血管侵襲の有無
- 腫瘍径 > 5 cm
フォローアップは術後3か月ごとに骨盤MRIまたはCT、腫瘍マーカー(CA125)などで再発早期発見を目指します。
今後の展望
- 分子標的治療:HER2過剰発現例への抗HER2抗体薬
- 免疫チェックポイント阻害:PD-1/PD-L1阻害の臨床試験
- NGSによる遺伝子変異解析:PIK3CA, TP53変異が多く、個別化治療に期待
- 免疫組織化学的マーカーの精緻化:腫瘍マイクロアレイ解析
さらに、腫瘍微小環境やがん幹細胞を標的とした新規治療アプローチが研究されています。
MMMTの治療法
最も直接的な回答
MMMT(悪性ミュラー管混合腫瘍)の標準治療は広汎子宮摘出術を基盤とし,術後に化学療法を組み合わせることが推奨されます。放射線療法や分子標的治療・免疫療法も,個々のリスクプロファイルや病期に応じて適応検討します。
1. 手術療法
MMMT治療の第一歩は根治的手術です。
- 広汎子宮全摘術+両側付属器切除
- 骨盤・傍大動脈リンパ節郭清
- 腹膜ポケット掻爬や大網切除は,術中所見に応じて実施
- 手術後病理組織学的評価により,追加治療の強度を決定
手術で腫瘍塊を肉眼的に完全切除(R0)が得られるほど長期予後が改善します。
2. 化学療法
術後補助化学療法は再発リスク低減に不可欠です。代表的レジメンを以下の表にまとめます。
通常4〜6サイクルを行い,副作用管理としてG-CSFや抗嘔吐薬を併用します。新しい順でパクリタキセル+カルボプラチンが耐用性・有効性のバランスで主流です。
3. 放射線療法
局所制御率向上や再発予防を目的に,以下の適応を検討します。
- 骨盤照射(外部照射)
- 腟床部ブラキセラピー
- 病理診断で局所浸潤が深い場合やマージン不良例
単独照射のエビデンスはまだ限定的ですが,手術+化学療法後の局所再発抑制に有用とされます。
4. 分子標的治療・免疫療法
標準治療後の再発・進行例や,高リスク生物学的マーカー陽性例では以下を検討します。
- PD-1抗体(ペムブロリズマブなど):MSI-Hや高TMB例で反応例報告あり
- ER/PR陽性MMMTに対し,タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬を用いる試み
- VEGF阻害(ベバシズマブ):単独使用のデータは少ないが臨床試験で検討中
- PARP阻害薬:BRCA変異を伴う症例への応用可能性
これらはいずれも探索的アプローチであり,臨床試験参加が推奨されます。
5. フォローアップと管理
術後管理は再発検出の早期化とQOL維持が目的です。
- 定期診察・画像(MRI or CT):3ヶ月毎(初2年),6ヶ月毎(3〜5年),年1回(以降)
- 腫瘍マーカー(CA125)測定:定期的に併用
- 骨盤・腰背部痛や出血など新規症状の早期評価
- サポーティブケア:骨髄抑制,末梢神経障害,疲労に対する対症療法
次のトピック候補
- 再発MMMTに対する臨床試験の最新動向
- 手術適応外の進行例に対する緩和的化学療法戦略
- 病理分子マーカーに基づく個別化治療アプローチ
- MMMT症例登録データベースを用いた予後因子解析
さらに深掘りしたいテーマがあれば教えてください!
最新の再発MMMT治療
最も直接的な回答
再発MMMTでは,局所制御と全身制御を両立するマルチモーダルアプローチが推奨されます。再手術や定位放射線療法による局所治療と,同時に以下の化学療法・分子標的療法・免疫療法を組み合わせるのが最新の潮流です。
1. 再発例への治療選択のポイント
- 局所再発か遠隔転移かを画像診断(MRI, CT, PET-CT)で精査
- 病理組成(上皮成分 vs 間葉成分の支配的割合)と分子プロファイル(MSI, PD-L1, HER2, HRDなど)を再評価
- 全身状態(ECOG PS)や前治療歴を考慮し,多職種カンファレンスで個別化戦略を立案
2. 化学療法レジメン
- パクリタキセル+カルボプラチン
- 再発エピソードでも耐用性が良好,奏効率30〜40%報告
- ドキソルビシン+イホスファミド
- sarcomatousコンポーネント支配例で有効性を示す
- ゲムシタビン+ドセタキセル
- リポソーム化ドキソルビシン
各レジメンは4〜6サイクル投与し,G-CSF,抗嘔吐薬で支持療法を徹底します。
3. 分子標的療法・免疫療法
- 抗PD-1/PD-L1抗体(ペムブロリズマブ,デュルバルマブ)
- MSI-H/MMR欠損例やPD-L1高発現例で高い奏効率を期待
- KEYNOTE-775で示された進行子宮がんでの有効性をMMMTにも応用
- HER2陽性のcarcinomatousコンポーネント支配例で検討
- HRD陽性例やBRCA変異を伴う再発例に対して試験的に使用
- 抗浸潤・抗血管新生を狙い,paclitaxelとの併用例が報告あり
これらは現段階では多くがオフラベルまたは臨床試験枠での使用となります。
4. 局所治療の併用
- 再手術(R0切除が可能な単発再発例)
- 定位放射線療法(SBRT)や過門病変への腔内照射
- 再発部位が骨盤外に限定的であれば,外科的切除+局所放射線照射で長期コントロールを図るケースもあります。
5. 臨床試験参加の勧め
- 再発MMMTは極めて稀かつ予後不良で,標準化された三次治療が未確立
- 新規抗がん薬・抗体薬,免疫療法併用などフェーズⅠ/Ⅱ試験が各施設で進行中
- 分子プロファイリングに基づくバスティオン(basket)試験も選択肢
次にご興味があるテーマ
- MSI-H/MMR欠損MMMTでの免疫療法単独 vs 併用のエビデンス
- HER2陽性carcinomatous成分支配例における双特異性抗体の可能性
- 再発MMMTのバスティオン試験:腫瘍アグレッサー分子標的薬の展望
- 患者QOLを維持するサポーティブケア最新ガイドライン
さらに詳しく知りたいトピックがあればお知らせください!
抗HER2療法の具体例
最も直接的な回答
HER2陽性腫瘍に対する代表的な抗HER2薬には,トラスツズマブ(Herceptin),ペルツズマブ(Perjeta),T-DM1(Kadcyla)などの抗体製剤や抗体薬物複合体(ADC),さらにtrastuzumab deruxtecan(Enhertu)といった新規ADCがあり,MMMTでもオフラベル使用や臨床試験枠での検討が可能です。
主な抗HER2薬一覧
MMMTにおける臨床応用ポイント
- HER2陽性MMMTでは,まず標準治療(手術+化学療法)にこれらの抗HER2薬をオフラベル併用するケースが国内外で報告されています。
- 心機能モニターや呼吸器系有害事象管理を含むサポート体制の整備が不可欠です。
- 臨床試験(バスティオンデザインや婦人科がん専用試験)への参加検討を推奨します。
次に深掘りできるトピック候補
- 抗HER2薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用試験
- 専用バスティオン試験でのHER2ターゲティングADCの展望
- 心毒性管理プロトコールの最新ガイドライン
- MMMTにおけるHER2発現評価と耐性機序の分子プロファイリング
これらのテーマにご関心があればお知らせください!