悪性マラリア

アクセイマラリア

【英】malignant malaria

→熱帯熱マラリア

熱帯熱マラリア

ネッタイネツマラリア

【英】falciparum malaria

【独】Falciparum‐malaria

【仏】paludisme a｀　Plasmodium　falciparum

熱帯熱マラリア原虫P．falciparumによるマラリアで別名悪性マラリアmalignant malariaとも呼ばれる．東南アジアのマラリアの約40～50％，熱帯アフリカのマラリアの95％はこのマラリアである．発熱発作時悪寒はあるが悪寒戦慄がないのが特徴で，臨床的にはマラリアらしくないので治療開始が遅れやすい．発病後5日以内に適切な抗マラリア薬で治療を始めれば予後はよい．6病日に入ると急に腎不全，意識障害，黄疸，出血傾向などを起こしキニーネ＊

キニーネ

【英】quinine

【独】Chinin

【仏】quinine

【ラ】quinini

同義語：塩酸キニーネquinine hydrochloride

一般に原形質毒として知られており，ジヒドロキニーネとともにキナアルカロイド中に含有し，抗マラリア作用が最も強く，再発性の三日熱マラリア＊に有効である．マラリア原虫に対する作用は繁殖体死滅作用であるが，胞子体または前赤芽球内発育期の組織型には致死作用がないことから真の原因予防薬ではない．また，キニーネはアンチピリン類似の中枢性解熱作用を有するが，発現が遅く，作用もアンチピリン＊よりは弱い．

の点滴静注によりマラリア原虫を可及的速やかに駆除しないと予後不良である．現在輸入マラリア（→輸入伝染病）

輸入伝染病（感染症）

ユニュウデンセンビョウ

【英】afferent infection disease

赤痢，コレラ，腸チフス，マラリアなどのように，わが国には常在しないか，あってもまれな伝染病が，これらの常在する国に旅行して感染し帰国後に発病したり，その国からの輸入食品によりわが国に持ち込まれたりする伝染病をいう．病名と推定罹患国の主なものをあげれば，細菌性赤痢はインド亜大陸（インド・ネパール・パキスタン），韓国，東南アジア．アメーバ赤痢は中国，台湾，フィリピン，インド亜大陸，韓国．腸チフス・パラチフスは東南アジア，韓国．マラリアはインドネシア，アフリカ大陸，インド亜大陸．ウイルス性肝炎はインド亜大陸，東南アジア，アフリカ大陸．ランブル鞭毛虫症はインド亜大陸．細菌性食中毒はインド亜大陸，東南アジア．コレラはインド亜大陸，東南アジアである．

の中で最も恐しいもので，非定型的症状と抗マラリア薬の不足のため毎年死者がでている．ヒトに感染するマラリア原虫の中で抗マラリア薬に耐性を示すのは熱帯熱マラリア原虫だけで，東南アジア，中南米，東アフリカに多い．クロロキン＊，ピリメタミンとサルファ剤の合剤，キニーネなどに耐性を示し，マラリアの予防と治療上重大な問題となっている．→マラリア

→画像１

→画像２

三日熱マラリア

ミッカネツマラリア

【英】vivax malaria

【独】Vivaxmalaria

【仏】paludisme a｀　Plasmodium　vivax

同義語：benign tertian malaria

三日熱マラリア原虫Plasmodium　vivaxによるマラリアを三日熱マラリアと呼ぶ．感染後3年くらい再発し，その時1日おき，すなわち足かけ3日ごとに発熱するのでこの名前がついた．初感染時には毎日発熱することが多い．発熱発作時悪寒戦慄を伴い最も定型的なマラリアの症状を呈し臨床的診断が容易である．症状は激しいが予後はよい．肝細胞内に赤外型原虫が残りプリマキンを用いる根治療法を行わないと約3年間再発するがその後は自然治癒する．

→画像

悪性マラリア（重症マラリア）

定義と疫学

悪性マラリアは、Plasmodium属原虫によるマラリア感染症が重篤化し、脳症や多臓器不全をきたす状態を指します。主因はPlasmodium falciparumで、適切な治療開始が遅れると致死率が非常に高くなります。

WHOの報告では、2016年に約2.16億件のマラリア感染が確認され、約44.5万人が死亡したと推定されています。特にアフリカでは発生率と死亡率が最も高く、渡航者や妊婦、小児が重症化リスクを抱えます。

病原体と媒介昆虫

Plasmodium falciparum：悪性マラリアの主因種で、赤血球内で大量増殖し微小血管に停滞を引き起こす。
その他のPlasmodium spp.：P. vivax、P. malariae、P. ovale、P. knowlesiなどが存在するが、これらは通常は比較的軽症型である。
媒介昆虫：Anopheles属ハマダラ蚊が吸血時に寄生虫をヒトに伝播する。

病態生理

寄生された赤血球内での原虫増殖に伴い、赤血球が破壊されると同時に代謝産物が放出され、貧血や乳酸アシドーシスを引き起こします。さらに、赤血球表面への粘着性増強によって微小血管に赤血球が停滞し、脳や腎、肺などで血流障害を来します。

臨床症状

突然の高熱発作（40℃前後）、悪寒発作、発汗を伴う周期的発熱
頭痛、筋肉痛、関節痛、嘔吐、下痢
重症例では意識障害（脳症）、ARDS（急性呼吸窮迫症候群）、腎不全、DIC（播種性血管内凝固）など多臓器不全を呈する

診断

重症マラリアの確定診断には、発熱後5～6時間以内に採血してギムザ染色による薄層・厚層塗抹標本を作製し、原虫の有無と種識別を行います。迅速診断キット（RDT）も補助的に用いられますが、染色標本が診断のゴールドスタンダードです。

治療

重症化リスクが高いため、診断確定後は速やかに静脈内アルテスネート（IV artesunate）またはキニーネを投与し、寄生虫血中濃度を迅速に低下させます。加えて、輸液管理、輸血補助療法、電解質・酸塩基平衡のモニタリングを並行して行います。

予防

蚊帳や長袖長ズボンの着用、室内残留噴霧（IRS）による蚊の侵入防止
DEET含有忌避剤の皮膚塗布
渡航前化学予防としてアトバコン・プログアニル合剤（Malarone®）やメフロキンの投与
妊婦や小児では、WHO推奨の季節性マラリア化学予防（IPTp／IPTi）を実施

種類別重症度比較

※P. falciparumのみが「悪性マラリア」と呼ばれる重症化リスク種であり、他種は比較的緩徐な臨床経過をたどります。

次世代のマラリア対策としては、WHO承認のRTS,Sワクチン導入や、薬剤耐性の進行を抑える複合治療レジメンの開発が進行中です。今後は非侵襲型の早期診断技術や、マラリア寄生虫のゲノム編集による媒介蚊の抵抗性付与など、新たなソリューションにも注目が集まります。

How Malaria Transmission Occurs

Malaria is primarily transmitted when an infective female Anopheles mosquito takes a blood meal from a human, injecting Plasmodium sporozoites via her saliva into the bloodstream. Only female Anopheles mosquitoes can become vectors, as they require blood for egg development. In the mosquito, gametocytes ingested from an infected person mature into sporozoites over about one week before the mosquito can infect the next host.

Mosquito-Mediated Transmission

A mosquito bites an infected person and ingests blood containing Plasmodium gametocytes.
Inside the mosquito’s midgut, gametocytes fuse and develop into ookinetes, then oocysts.
Oocysts release sporozoites, which migrate to the salivary glands.
When the mosquito bites again, sporozoites are injected into the new human host, initiating infection.

Alternative Transmission Routes

Although rare, malaria can also spread by direct blood exposure or from mother to child:

Blood transfusions or organ transplants with contaminated blood/tissue
Sharing needles or syringes contaminated with infected blood
Congenital transmission, from an infected mother to her fetus during pregnancy or delivery

What Does Not Transmit Malaria

Malaria is not a contagious disease in the usual sense:

It cannot spread via casual contact (e.g., touching, hugging)
It is not transmitted through respiratory droplets or sexual contact
Person-to-person transmission without blood exposure does not occur

Interrupting the Transmission Cycle

Key interventions focus on preventing mosquito bites and reducing vector populations:

Use of insecticide-treated bed nets (ITNs) and indoor residual spraying (IRS)
Application of DEET-based repellents on exposed skin
Antimalarial chemoprophylaxis for travelers to endemic areas
Screening and safe handling of blood products to avoid transfusion-related cases

By targeting both the mosquito vector and potential non-vector routes, these measures break the cycle of transmission and protect at-risk populations.