悪性高体温症
アクセイコウタイオンショウ
【英】malignant hyperthermia(MH)
悪性高体温症は,吸入麻酔の重篤な副作用として1960年に報告された.麻酔薬による代謝亢進に伴う高熱,異常な発汗,頻脈,不整脈,血圧の変動,酸血症,筋拘縮,ミオグロビン尿などが出現する.本症状をきたす疾患として筋ジストロフィー muscular dystrophy(→筋萎縮〔症〕),ミオトニア症候群myotonic syndrome(→筋強直症),セントラルコア病*,
筋萎縮〔症〕 キンイシュクショウ 【英】muscular atrophy 【独】Muskelatrophie
骨格筋が量的に減少することで,非活動性萎縮*disuse atrophy,
神経原性萎縮neurogenic atrophy,筋原性萎縮myogenic atrophyに分けられる.非活動性の場合は脳血管障害などの中枢性麻痺や,長期臥床後などにあらわれ,麻痺の回復,活動再開により可逆的である.神経原性は脊髄前角細胞や末梢神経運動線維の障害で生じ,外傷などの局所性原因や全身性の系統疾患,例えば筋萎縮性側索硬化症*
などが原因となる.予後は原因次第であるが短期間のうちに神経再支配が起きれば萎縮は回復する.筋原性は筋線維の障害で生じ,局所性の原因や全身性疾患により筋が侵される場合のほか,筋肉自体が変性を起こす場合も多く,代表的なものに進行性筋ジストロフィー*progressive muscular dystrophyがある.原因が除去され,筋の再生が起きれば回復するが,変性疾患では予後不良である.これらの萎縮の種類の区別は筋電図の検査などで可能である. |
労作性熱射病(→熱射病),臨床症状がなく血清クレアチンキナーゼ血症を呈する疾患などがある.本疾患の素因検出には,skinned fiber法あるいは筋線維束法で,カルシウム誘発性カルシウム遊離(CICR)の亢進あるいはcaffeine拘縮などで確認する方法がある.本疾患の本態は,骨格筋の興奮・収縮連関に異常が生じるためと考えられ,筋小胞体に存在しているカルシウム誘発性カルシウム遊離チャネルの受容体を構成しているryanodine受容体の異常が考えられている.今までに,優性遺伝を呈する家系でryanodine受容体遺伝子の異なった部位の突然変異が報告されている.
熱射病
ネッシャビョウ
【英】heat stroke
【独】Hitzschlag
【仏】coup de chaleur
同義語:うつ熱症heat retention,日射病sun stroke
強い高温条件下でエネルギー消費量の多い労働や運動をしている際に,通常突然に発症する重篤な熱中症*である.この型の熱中症は体内での産熱量が発汗などによる放熱量よりも多いために,体内に熱がうっ積し,体温調節機能に失調をきたすことによって発症するといわれている.別名うつ熱症といわれるゆえんはここにある.この障害は,体温の異常上昇(直腸温40℃以上),全身的な発汗停止と,それによる乾熱皮膚,めまい・悪心・ひどい頭痛・精神錯乱・昏睡・腱反射の低下・弛緩性筋麻痺・意味のない運動・異常感覚などの中枢神経系障害の三大症状によって特徴づけられる.なお,全般的に症状が軽く,とくに中枢神経系の顕著な障害が認められない場合には境界熱射病borderline heat stroke といわれることもある.また,意識があり発汗がなお停止していない場合には熱性高体温症heat hyperpyrexia といわれることもある.炎天下で熱射病にかかった場合には,一般に日射病と呼ばれている.熱射病(日射病)は緊急処置が必要であり,直ちに身体の冷却などの処置を開始しなければ,器官の非可逆性の損傷をきたし死に至ることもある.
悪性高体温症(正式には「悪性高熱症」)は、全身麻酔中にまれに発症する重篤な合併症で、特定の麻酔薬や筋弛緩薬が引き金となって、骨格筋が異常に収縮し続け、急激な体温上昇や代謝異常を引き起こします。
主な特徴
原因
多くはリアノジン受容体(RyR1)遺伝子の異常によるもので、常染色体優性遺伝します。家族歴がある場合は特に注意が必要です。
誘因となる薬剤
治療
唯一の特効薬はダントロレンで、筋小胞体からのカルシウム放出を抑制し、筋収縮と熱産生を抑えます。加えて、体温の冷却、酸素投与、電解質補正などの全身管理が必要です。
この疾患は非常にまれですが、発症すると命に関わるため、麻酔前の問診や家族歴の確認がとても重要です。
もっと詳しく知りたい部分があれば、たとえば「症状の見分け方」や「ダントロレンの使い方」など、深掘りしてお話しできますよ。どうします?
悪性高体温症(悪性高熱症)の具体的な症状は、麻酔中または直後に急激に現れるのが特徴です。以下のような兆候が見られた場合、迅速な対応が必要です。
主な症状
これらの症状は、麻酔薬投与後すぐに現れることもあれば、数時間後に発症することもあります。特に「顎の硬直」や「EtCO₂の急上昇」は早期発見のカギとされています。
もっと詳しく知りたい症状や、見分け方のポイントなどがあれば教えてくださいね。たとえば「EtCO₂ってどうやって測るの?」なんて話もできますよ。気になりますか?
もちろんです。悪性高体温症(悪性高熱症)は、悪性症候群やセロトニン症候群などと症状が似ており、混同されやすいですが、それぞれ原因や経過、治療法が異なります。以下に代表的な3疾患の比較をまとめました。
特徴 |
悪性高体温症(MH) |
悪性症候群(NMS) |
セロトニン症候群(SS) |
原因 |
揮発性麻酔薬・スキサメトニウム |
抗精神病薬の使用または中止 |
SSRIやMAO阻害薬などのセロトニン作動薬 |
発症時間 |
麻酔導入後すぐ〜数時間以内 |
数日〜1週間 |
数分〜24時間以内 |
主な症状 |
筋硬直、高熱、頻脈、横紋筋融解 |
筋強剛、高熱、意識障害、自律神経症状 |
興奮、不安、発汗、振戦、反射亢進、ミオクローヌス |
筋硬直の特徴 |
強い硬直(特に顎) |
錐体外路症状(筋強剛) |
筋緊張亢進、振戦、ミオクローヌス |
反射亢進 |
なし |
まれ |
しばしばあり |
治療薬 |
ダントロレン |
ダントロレン、ブロモクリプチンなど |
シプロヘプタジン(セロトニン拮抗薬) |
ダントロレンの効果 |
有効 |
有効(第一選択) |
無効(使用すべきでない) |
このように、発症のきっかけや神経筋症状の違い、治療薬の適応が重要な鑑別ポイントになります。特にセロトニン症候群では「反射亢進」や「ミオクローヌス」が目立つのが特徴です。
もっと詳しく知りたい疾患や、臨床での見分け方などがあれば、そこを深掘りしてご説明できますよ。どこを掘り下げましょうか?
悪性高体温症(悪性高熱症)の治療は、時間との勝負です。発症が疑われたら、即座に以下の対応を取ることが命を救う鍵になります。
🔧 治療の基本ステップ
このように、ダントロレンの迅速な投与と全身管理の徹底が治療の柱です。詳しくは MSDマニュアルの解説 にも記載されています。
もし「ダントロレンってどこに常備されてるの?」とか「冷却ってどのくらいのスピードでやるの?」など、現場での実践的な話にも興味があれば、そこも掘り下げてお話しできますよ。どうします?
ダントロレンにはいくつかの副作用が報告されていますが、重篤な副作用はまれです。ただし、使用中は慎重な観察が必要です。
主な副作用(頻度順)
分類 |
症状の例 |
消化器系 |
食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、便秘、腹痛、胃痛など |
神経系 |
眠気、めまい、頭痛、ふらつき、倦怠感、脱力感、集中力低下など |
肝機能 |
AST・ALT上昇、黄疸、肝障害(定期的な肝機能検査が推奨されます) |
呼吸器系 |
呼吸困難、咳、胸痛、胸水貯留、まれに呼吸不全 |
循環器系 |
血圧低下、頻脈、静脈炎 |
過敏症 |
発疹、かゆみ、アナフィラキシー(非常にまれ) |
その他 |
発熱、悪寒、筋力低下、尿失禁、視力障害、味覚異常など |
注意が必要なケース
副作用の頻度や重症度は個人差がありますが、異常を感じたらすぐに医師に相談することが大切です。
もっと詳しく知りたい副作用や、特定の症状が気になる場合は教えてくださいね。たとえば「肝障害ってどんな兆候があるの?」などもお話しできますよ。
肝障害は「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓に起こるため、初期には自覚症状がほとんどないのが特徴です。ただし、注意深く観察すれば、体が発するサインに気づけることもあります。
🟡 初期に見られる兆候
🟠 進行すると現れる兆候
これらの症状は、必ずしも肝障害だけが原因とは限りませんが、「なんとなく不調」が続くときは、肝臓からのSOSかもしれません。
気になる症状があれば、健康診断や血液検査(AST、ALT、γ-GTPなど)を受けるのが早期発見のカギです。もしよければ、検査値の見方や生活習慣の改善ポイントもお話しできますよ。どうします?