悪性黒子型黒色腫

アクセイコクシガタコクショクシュ

【英】lentigo maligna melanoma

 

→悪性黒色腫

悪性黒色腫

アクセイコクショクシュ

【英】malignant melanoma

【独】malignes Melanom

【仏】me´lanome malin

【ラ】melanoma malignum

同義語:メラノーマmelanoma,メラノーム

 

色素細胞melanocyte(メラニン色素産生細胞)の癌化によって生じる悪性腫瘍であり,多くは黒褐色調の病変として皮膚に生じる.まれには眼(脈絡膜など)や粘膜(口腔など)にもみられる.転移を生じやすく,きわめて悪性度の高い腫瘍である.表皮基底層部に存在する色素細胞の癌化に起因することが多いが,色素細胞母斑(母斑細胞母斑nevus cell nevus;→色素性母斑)

色素性母斑

シキソセイボハン

【英】pigmentedmole

【独】Pigmentmal

【仏】naevus pigmentaire

【ラ】naevus pigmentosus

同義語:黒あざ,母斑細胞性母斑nevus cell nevus

 

正確には母斑細胞性母斑というべきもので,一般に黒褐色ないし黒色を呈し,大きさは数mmの小さいものから,大きいものはほぼ全身に至るもの(獣皮様母斑,巨大色素性母斑*,海水着型母斑)まであり,ほとんど扁平のものから,やや扁平に隆起するもの,半球状に隆起するものなどさまざまであり,剛毛を有するものもある(有毛性色素性母斑nevus pigmentosus piliferus).母斑細胞*は神経堤(櫛)*neural crest由来のnevoblastから発生しmelanoblast由来のmelanocyteとはさまざまな生物学的特性を異にする.一般に母斑細胞は表皮真皮境界部,真皮上層部に位置するものは表皮細胞に似た球状を呈する(A型)ものが多く,真皮中層に位置するものは小型でその形はリンパ球に似て(B型),真皮下層に位置するものは線維芽細胞*ないしシュワン細胞に似て細長い紡錘形を呈する(C型).この細胞形態の変化は上層から下層へと漸次的に移行する.母斑細胞内にはメラニン顆粒がみられるが,一般にこれは表皮に近いA型母斑細胞に多く中層のものでは減少し,下層紡錘形の細胞では全くメラニン顆粒を欠く.母斑細胞は相集合して胞巣(nevus cell nest)をつくるが,そのみられる位置によって以下のごとく分類される. 1)境界母斑junction nevus:母斑細胞が表皮真皮境界部に限局している. 2)複合母斑compound n.:母斑細胞が境界部と真皮とにあるもの. 3)真皮内母斑intradermal n.:母斑細胞が真皮内のみにあるもの.一般的に1)→3)へと年齢的な変化を示す.母斑細胞性母斑の悪性黒色腫*への癌化に関しては境界母斑,複合母斑の境界部母斑細胞から結節型悪性黒色腫を生ずる可能性が考えられている.

から生じるとする説もある.真皮内に原発する悪性青色母斑malignantblue nevusはごくまれな病型である.悪性黒色腫は臨床・病理組織学的所見により,結節型黒色腫nodular melanoma,表在拡大型黒色腫superficial spreading m.,悪性黒子型黒色腫lentigo maligna m.,末端黒子型黒色腫acral lentiginous m.,の4病型に分類される(Clark分類).結節型は周囲に色素斑を伴わないが,他の3病型では結節周囲に黒褐色調の斑ないし局面が認められ,この部分の組織学的所見の差により互いに区別される.悪性黒色腫の発生頻度と好発部位,病型別相対頻度には顕著な人種差が存在する.発生頻度は白人で最も高く,黒人で低く,日本人などの黄色人種はその中間である.白人では表在拡大型が最頻病型で,男性の背部や女性の下肢(末端部を除く)に好発する.黒人では末端黒子型が圧倒的多数を占める.日本人における好発部位は足底と手足の爪部であり,病型的には末端黒子型が最も多いが,結節型もかなり多数みられる.悪性黒子lentigo maligna(ハッチンソン黒色斑Hutchinson's melanotic freckle)やパジェット様前癌性黒色症pagetoidpremalignant melanosisと呼ばれる病変は,それぞれ悪性黒子型黒色腫と表在拡大型黒色腫の早期病変(melanoma in situ)に相当するものであり,いずれも不規則形で濃淡差の目立つ黒褐色斑状皮疹としてみられる.悪性黒色腫の予後を規定するもっとも重要な因子は原発巣の厚さ(Breslow's tumor thickness:表皮顆粒層から最深部の腫瘍細胞までの距離)であり,これが0.75mm以下であれば5年生存率は100%に近くなるが,4mm以上になると5年生存率が50%以下になる.治療は外科的な広範切除が第一選択であり,症例によっては所属リンパ節の郭清術も施行する.進行期の症例などには多剤併用化学療法が行われる.

悪性黒子型黒色腫(あくせいこくしがたこくしょくしゅ)は、**悪性黒色腫(メラノーマ)**の一種で、特に高齢者の顔面など日光に長年さらされた部位に多く見られるタイプです。

このタイプは、茶色〜黒褐色の平らなシミのような色素斑として始まり、時間をかけてゆっくりと広がっていきます。進行すると、しこりや潰瘍を伴うこともあります。見た目が普通のシミやホクロに似ているため、早期発見が難しいこともあります。

診断には、ダーモスコピーという拡大鏡を使った視診や、必要に応じて病理組織検査が行われます。治療は、早期であれば外科的切除が基本で、進行している場合は免疫療法や分子標的治療などが検討されます。

気になる皮膚の変化がある場合は、皮膚科専門医の診察を受けることが大切です。ご希望があれば、他のタイプのメラノーマや診断基準(ABCDEルール)についてもご紹介できますよ。

メラノーマ(悪性黒色腫)には、見た目や発生部位の違いから主に4つのタイプがあります。それぞれ特徴が異なるため、早期発見のためにも知っておくと役立ちます。

主なメラノーマのタイプ

  1. 末端黒子型(まったんこくしがた)
  1. 表在拡大型(ひょうざいかくちょうがた)
  1. 結節型(けっせつがた)
  1. 悪性黒子型(あくせいこくしがた)

また、これらに加えて、粘膜型(口腔、鼻腔、直腸、外陰部などの粘膜に発生)というタイプもあります。こちらは発見が遅れやすく、進行してから診断されることが多いです。

気になる症状がある場合は、ABCDEルール(非対称性、境界の不規則さ、色の多様性、直径6mm以上、進行性)を参考にしつつ、早めに皮膚科を受診することが大切です。

もっと詳しく知りたいタイプがあれば、深掘りしてご紹介しますよ。

メラノーマ(悪性黒色腫)のリスク要因には、環境的・遺伝的・身体的な要素が複雑に関係しています。以下に主なリスク要因をまとめました:

主なリスク要因

  1. 紫外線(UV)への過剰な曝露
  1. 色白の肌・日焼けしやすい体質
  1. 家族歴・遺伝的要因
  1. 多くのホクロや異型母斑の存在
  1. 免疫力の低下
  1. 物理的刺激
  1. 先天性色素性母斑

これらのリスクを踏まえて、**紫外線対策(帽子・日焼け止めの使用など)**や、皮膚の定期的なチェックが予防につながります。気になるホクロやシミがある場合は、皮膚科での診察をおすすめします。

ご希望があれば、リスクを減らすための日常的な対策についてもご紹介できますよ。

メラノーマ(悪性黒色腫)の予防には、紫外線対策を中心とした日常的な工夫がとても重要です。以下に、効果的とされる予防法をまとめました:

🌞 紫外線から肌を守る

👀 皮膚のセルフチェック

🧬 リスクの高い人は定期的に皮膚科受診

🍊 食生活と生活習慣

🚫 過度な日焼けを避ける

日々のちょっとした意識が、将来の大きな安心につながります。ご希望があれば、セルフチェックの具体的な方法や、日焼け止めの選び方もご紹介できますよ。

メラノーマのセルフチェックは、早期発見の鍵となるとても大切な習慣です。以下のポイントを押さえて、月に1回程度、自分の肌をじっくり観察してみましょう。

🔍 チェックの基本ステップ

  1. 明るい場所で全身を観察
  1. ABCDEルールでホクロやシミを評価
  1. 触って確認

🪞 チェックしにくい部位の工夫

✅ 気になる変化があれば

より詳しいチェック方法は、小野薬品のセルフチェック解説ページや、MSD定期受診とセルフチェックの案内も参考になりますよ。

必要なら、チェックリスト形式で印刷できるようにもまとめますね。どうします?

もちろんです!メラノーマのセルフチェックに役立つチェックリスト形式を以下にまとめました。印刷して使ったり、スマホに保存しておくと便利ですよ。

🧴 メラノーマ セルフチェックリスト

🔍 観察ポイント(ABCDEルール)

項目

チェック内容

A(非対称性)

左右の形が対称でない

B(境界)

境界がギザギザ・ぼやけている

C(色)

色ムラがある(黒・茶・赤・白など)

D(直径)

直径6mm以上ある

E(進行性)

大きさ・形・色が変化している

🪞 チェックする部位

部位

チェック済み

顔・首・耳の後ろ

胸・腹・背中

腕・手のひら・指の間

足の裏・足の指の間・かかと

爪(黒い線や変色)

頭皮(髪の分け目)

お尻・太ももの付け根

🤲 触診ポイント(リンパ節)

部位

腫れ・しこりがないか

わきの下

太ももの付け根

このチェックリストは、小野薬品のセルフチェック解説ページMSD定期受診とセルフチェック案内を参考に作成しました。月に1回の習慣にすると、変化に気づきやすくなりますよ。

必要であれば、PDF形式でまとめる方法もご案内できます!お気軽にどうぞ。

悪性黒子型黒色腫(Lentigo Maligna Melanoma)は、他の皮膚がんといくつかの点で異なります。以下に主な違いをまとめます:

1. 発生部位と原因

2. 進行のスピード

3. 見た目の特徴

4. 予後と治療

気になるのは、見た目が「ただのシミ」に見えることが多く、発見が遅れやすい点です。もし気になる皮膚の変化があれば、早めに皮膚科で診てもらうのが安心ですね。ご希望があれば、セルフチェックのポイントもお伝えできますよ。

悪性黒子型黒色腫(Lentigo Maligna Melanoma)の早期発見には、日常的なセルフチェックと皮膚科での定期的な診察がとても重要です。特に以下のポイントに注意しましょう:

ABCDEルールでセルフチェック

これは悪性黒色腫を見分けるための国際的な基準です:

このうち1つでも当てはまる場合は、皮膚科受診をおすすめします。

✅ 特に注意すべき変化

✅ 定期的な皮膚科受診

特に高齢者や日光曝露の多い方は、年に1回程度の皮膚科チェックが推奨されます。ダーモスコピーという拡大鏡を使った診察で、肉眼では見分けにくい変化も確認できます。

気になる箇所があれば、スマホで定期的に写真を撮っておくのも変化に気づく手助けになりますよ。

必要であれば、セルフチェック用のチェックリストも一緒に作りましょうか?

悪性黒子型黒色腫(Lentigo Maligna Melanoma)の最新の治療法は、がんの進行度や遺伝子変異の有無に応じて多様化しています。以下に、現在注目されている治療法をまとめました。

1. 外科的切除(基本治療)

初期段階では、広範囲切除が基本です。がんの周囲に見えない転移(衛星病巣)がある可能性があるため、腫瘍の周囲を数cm単位で切除します。

2. センチネルリンパ節生検

転移の有無を調べるために、**最初にがんが転移しやすいリンパ節(センチネルリンパ節)**を検査します。転移があれば、リンパ節郭清が行われることもあります。

3. 免疫チェックポイント阻害薬

進行例や再発例では、免疫療法が主力になっています。特に以下の薬剤が使われます:

4. 分子標的治療

BRAF遺伝子変異がある場合、以下の薬剤が使われます:

5. 放射線療法(限定的)

悪性黒色腫は放射線に強いとされますが、陽子線や重粒子線などの先進的な放射線療法が一部施設で行われています。また、脳転移がある場合にはガンマナイフやサイバーナイフが選択されることもあります。

6. 免疫細胞療法(先進医療)

6種複合免疫療法など、患者自身の免疫細胞を活性化して戻す治療も注目されています。副作用が少なく、他の治療と併用できる点が特徴です。

治療法の選択は、がんのステージ、遺伝子変異、全身状態などによって異なります。気になる点があれば、専門医と相談するのが一番です。

もっと詳しく知りたい治療法があれば、深掘りしてご説明しますよ。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療に革命をもたらした免疫療法の一種で、体の免疫システムを活性化させてがん細胞を攻撃する仕組みです。がん細胞が免疫から逃れるブレーキを解除することで、T細胞(免疫細胞)が本来の力を発揮できるようにします。

🔬 仕組み:免疫のブレーキを外す

私たちの体には、免疫が暴走しないように「免疫チェックポイント」という仕組みがあります。がん細胞はこの仕組みを悪用し、T細胞の攻撃を回避します。
免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを解除することで、T細胞ががん細胞を再び攻撃できるようにします。

💊 主な標的と薬剤

標的分子

働き

主な薬剤名

PD-1T細胞上)

がん細胞のPD-L1と結合し、T細胞の働きを抑制

ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)

PD-L1(がん細胞上)

PD-1と結合して免疫抑制

アテゾリズマブ(テセントリク)、デュルバルマブ(イミフィンジ)

CTLA-4T細胞上)

T細胞の活性化を抑制

イピリムマブ(ヤーボイ)、トレメリムマブ(イジュド)

副作用(免疫関連有害事象:irAE

免疫を活性化しすぎることで、自己免疫疾患のような副作用が出ることがあります。

🌟 特徴とメリット

この治療法は、特に悪性黒色腫や肺がん、腎がんなどで成果を上げており、今後も適応が広がると期待されています。

もっと知りたい薬剤や、併用療法についても深掘りできますよ。どこから掘り下げましょうか?

ニボルマブ(オプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)は、免疫チェックポイント阻害薬としてがん治療に用いられ、特に**悪性黒色腫(メラノーマ)**などで顕著な効果を示しています。

🧬 ニボルマブの効果

💉 ペムブロリズマブの効果

🌟 共通のメリット

副作用もありますが、効果が出た場合のインパクトは非常に大きい薬剤です。
もっと詳しく知りたいがん種や、併用療法についてもご案内できますよ。どこを深掘りしましょう?

ニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)は、どちらも免疫チェックポイント阻害薬であり、免疫を活性化することでがんを攻撃しますが、その反面、**自己免疫反応のような副作用(免疫関連有害事象:irAE**が起こることがあります。

🧬 ニボルマブの主な副作用

分類

症状の例

呼吸器系

間質性肺疾患(息切れ、空咳、発熱)

消化器系

大腸炎、下痢、腹痛、血便

皮膚

発疹、かゆみ、水疱、白斑

内分泌系

甲状腺機能障害、副腎機能不全、1型糖尿病

神経系

筋力低下、しびれ、重症筋無力症、脳炎

肝臓・腎臓

肝炎、肝機能障害、腎不全

その他

発熱、倦怠感、食欲不振、インフュージョンリアクション(点滴時の過敏反応)

💉 ペムブロリズマブの主な副作用

分類

症状の例

呼吸器系

間質性肺疾患(息苦しさ、空咳)

消化器系

大腸炎、小腸炎、重度の下痢、胃炎

皮膚

発疹、そう痒症、水疱、重度の皮膚障害

内分泌系

甲状腺機能障害、副腎機能障害、1型糖尿病

神経系

ギラン・バレー症候群、脳炎、髄膜炎

肝臓・腎臓

劇症肝炎、腎機能障害

その他

倦怠感、発熱、点滴時の過敏症反応、血球貪食症候群

🛡️ 対応のポイント

副作用は怖いですが、適切な管理と早期対応で多くはコントロール可能です。気になる症状があれば、どんな小さなことでも医療チームに伝えることが大切です。

特定の副作用についてもっと詳しく知りたいものがあれば、そこを深掘りしてご説明しますよ。

免疫チェックポイント阻害薬による副作用(免疫関連有害事象:irAE)が出た場合、早期対応が極めて重要です。応急処置の基本は「気づいたらすぐに医療チームへ連絡し、重症化を防ぐこと」です。

🛑 応急対応の基本ステップ

  1. 症状の早期認識
  1. 治療の一時中断
  1. ステロイド治療の開始
  1. 専門科との連携
  1. 再投与の判断

🧭 患者さん・家族ができること

副作用は怖いものですが、早期発見と適切な対応で多くは回復可能です。
もし気になる症状がある場合、どんな小さなことでも遠慮せずに医療チームに伝えることが、命を守る第一歩です。

特定の症状(たとえば肺炎や内分泌障害など)について詳しく知りたい場合は、そこを深掘りしてご説明できますよ。どこから見ていきましょう?

いつもと違うことが起こったら、すぐ担当医療スタッフに連絡することが重要!

免疫チェックポイント阻害薬は、発現しやすい副作用を知っておくことが大事

監修●久保田 馨 日本医科大学付属病院がん診療センター長
取材・文●半沢裕子
発行:201812
更新:20197

  

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「免疫チェックポイント阻害薬の副作用は、チーム医療で取り組み、早めの対処が重要です」と語る日本医科大学付属病院がん診療センター長の久保田馨さん

本庶佑・京都大学特別教授のノーベル医学賞受賞により、一般にも知られるようになった免疫チェックポイント阻害薬オプジーボ。この薬剤は、がん細胞を直接攻撃するこれまでの細胞障害性抗がん薬や分子標的薬とは異なる作用機序でがんと闘う。効果が長期間持続し、副作用の頻度が少ないとされ、近年世界的に開発競争が過熱。すでに承認されている薬剤に関しても、異なるがん種への適応拡大が続々行われている。

その一方で、頻度は少ないとはいえ、多種多様な副作用が発現する可能性があり、免疫に関連した独自の副作用が起きることも明らかになってきた。免疫チェックポイント阻害薬の主な副作用とその対処方法について伺った。

がん細胞がかける免疫のブレーキを外す

もともと免疫細胞には、免疫が過剰に働いて正常な細胞まで攻撃しないよう抑える、ブレーキのようなシステムが備わっている。このシステムは「免疫チェックポイント機構」と呼ばれている。がん細胞はこの機構を利用して免疫にブレーキをかけ、免疫細胞に攻撃されないようにする。免疫チェックポイント阻害薬はこの抑制機構が働かないようにすることで、免疫細胞ががんを攻撃できるようにする。直接がん細胞を標的とするこれまでの抗がん薬治療とはまったく異なる作用機序をもつ治療法なのだ。

免疫チェックポイント阻害薬が登場した当初は、従来の抗がん薬と比べてがんを抑える効果が高く、副作用の頻度が少ないことで注目された。例えば、治療歴のある進行非小細胞肺がん患者を対象にオプジーボと抗がん薬タキソテールの有効性を比較検証した臨床試験(CheckMate-017試験)では、グレード34の副作用の発現割合が、タキソテールで55%だったのに対し、オプジーボは7%と報告されている。つまり、上記の比較試験ではグレードの高い副作用発現割合がタキソテールよりもオプジーボが低いという結果になったのだ。

ちなみに、このグレードとは米国国立がん研究所(NCI)が策定した「有害事象共通用語規準」(CTCAE)のことで、有害事象の重症度が下記の5段階で評価されている。世界共通の規準である。

「有害事象共通用語規準」(CTCAE
グレード1:「症状がない。または軽度の症状がある/治療を要さない」
グレード2:「最小限、局所的または非侵襲的な治療を要する」
グレード3:「重症または医学的に重大であるが、直ちに生命を脅かすことはない」
グレード4:「生命を脅かす転帰/緊急措置を要する」
グレード5:「有害事象による死亡」

頻度は高くなくても、驚くほどさまざまな副作用が発現

■写真「免疫チェックポイント阻害薬副作用対応院内マニュアル」
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しかしながら、実際には免疫チェックポイント阻害薬では多種多様な副作用(有害事象)が起きることが知られている。2014年、免疫チェックポイント阻害薬の「副作用マネジメントチーム(ICMT)」をいち早く立ち上げ、「免疫チェックポイント阻害薬副作用対応院内マニュアル」(写真)を作成した日本医科大学がん診療センター長の久保田馨さんは言う。

「全体として重篤(じゅうとく)な副作用が発現する頻度はそれほど高くないのですが、とにかく驚くほどさまざまな副作用が発現します。唾液腺に障害が起きて唾液が出なくなったり、ぶどう膜炎という眼病になるとか。副腎障害では化学療法とは桁違いのだるさが起きて、全く動けなくなる人もいます」

なぜ、そんなにさまざまな副作用が出るのだろうか。

「この薬は免疫の働きを高める作用があるので、リンパ球が存在する全身の臓器で免疫関連の副作用が起きる可能性があるということでしょう」

同マニュアルに記載された「とくに注意を要する副作用」を表1にまとめたが、これだけで17項目あり、診療科も呼吸科をはじめとして、消化器、泌尿器科、神経内科、眼科、耳鼻科、皮膚科などまで及ぶ。問題は免疫チェックポイント阻害薬の副作用としてこれらの症状が発現していることを、患者が気づきにくいこと、そして、各科の医師にもまだ知られていないことだと久保田さんは言う。

■表1 とくに注意を要する副作用
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新薬開発と適応拡大続く、免疫チェックポイント阻害薬

その背景には、免疫チェックポイント阻害薬ががん治療の新星として注目され、新しい薬剤が次々承認されているだけでなく、すでに保険適用された薬剤についても別ながん種への適応拡大が急激に進んでいる現状がある。ここで現状を簡単にまとめておこう(図2)。

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現在、日本で保険適用されている免疫チェックポイント阻害薬は大きく分けて3種類、①PD-1阻害薬、②PD-L1阻害薬、③CTLA-1阻害薬だ。

それぞれのカテゴリーで、すでに日本で承認されている薬剤は以下の通り(カッコ内は国内最初の承認)。

PD-1阻害薬
・オプジーボ:20147月にメラノーマ(悪性黒色腫)で承認
キイトルーダ:20169月にメラノーマで承認

PD-L1阻害薬
バベンチオ:20179月、メルケル細胞がんで承認
テセントリク:20181月に非小細胞肺がんで承認
イミフィンジ:20187月に非小細胞肺がんで承認

CTLA-4阻害薬
ヤーボイ:20157月、メラノーマで承認

オプジーボは最も早くから有望視されていた免疫チェックポイント阻害薬だが、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫と次々適応拡大を続けているだけでなく、ヤーボイとの併用も承認されている。そのほか、米国では非小細胞肺がんに対してキイトルーダ+アリムタ+プラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)の併用療法が行われ、驚くほどの効果があったとの報告が20184月、医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」(NEJM)に報告されたのだという。このように併用療法の臨床試験も世界的に相次いでおり、今後いっそうの承認、適応拡大が見込まれている。

オプジーボ=一般名ニボルマブ タキソテール=一般名ドセタキセル キイトルーダ=一般名ペムブロリズマブ
バベンチオ=一般名アベルマブ テセントリク=一般名アテゾリズマブ イミフィンジ=一般名デュルバルマブ
ヤーボイ=一般名イピリムマブ アリムタ=一般名ペメトレキセド