悪性貧血
アクセイヒンケツ
【英】pernicious
anemia
【独】pernizio¨se Ana¨mie
【仏】ane´mie pernicieuse
同義語:アジソン・ビールメル貧血Addison‐Biermer anemia, Addisonian
anemia,Biermer‐Ana¨mie
胃内因子*
胃内因子
イナイインシ
【英】gastric
intrinsic factor
胃内因子の名称は,胃液中に含まれる抗悪性貧血因子anti‐pernicious anemia factorとして,食物中に含まれる外因子に対して,Castle(1929)により命名されたものである.内因子intrinsic factor,キャッスル因子 Castle's factorともいう.分子量44,000の糖タンパク〔質〕*で胃体部粘膜に広く分布する壁細胞から分泌される.ビタミンB12*(VB12,
ビタミンB12
ビタミンビー12
【英】vitamin
B12(V. B12)
【独】Vitamin
B12
【仏】vitamine
B12
同義語:シアノコバラミンcyanocobalamin
肝臓中の抗悪性貧血因子として発見,単離された.ビタミンB12という名称は狭義にはシアノコバラミン(C63H88CoN14O14P.分子量1,355.38.暗赤色の結晶.水にやや溶けにくい.吸湿性)をさすが,広義にはコバラミンcobalaminをさす.吸収されたビタミンB12類(シアノコバラミン,ヒドロキソコバラミン*,アクアコバラミンaquacobalaminなど)は,生体内で還元酵素によりビタミンB12Sに還元され,さらにアデノシル化あるいはメチル化されて補酵素型(アデノシルコバラミンadenosylcobalaminあるいはメチルコバラミン*)に変換され,生理活性を発揮する.肝臓に多量に含まれ,その大半がアデノシルコバラミンの形で存在する.生理作用は骨髄のDNA合成低下に拮抗する抗貧血因子としてだけではなく,水素移動を伴う酵素反応やメチル基転移反応に関与している.このビタミンは細菌によって作られ,動物はこれを利用する.食品では,ウシ肝臓のほか卵黄,魚肉中に多く含まれる.細菌のある種の菌株は非常に大量のビタミンB12を産生するので,本品はもっぱら発酵法によって製造されている.→造血薬
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外因子に相当する)は胃内因子と結合して複合体を形成し,回腸粘膜のレセプターに到達して吸収される.胃液の中には分子量がより大で電気泳動速度が速いVB12結合タンパクのRタンパクが存在するが,VB12の腸管吸収とは関係がない.胃内因子‐VB12複合体はレセプターに付着すると,内因子を外してVB12のみ粘膜細胞内に入るか,あるいは複合体のまま粘膜細胞内に入り,そこで内因子からVB12が遊離し,門脈血に移行する.非生理的大量のVB12を投与すると内因子なしにきわめて少量が拡散作用により吸収される.胃内因子分泌病態は次の3型に分けられる. 1)先天性内因子分泌不全症:胃粘膜組織像および塩酸分泌は正常で,内因子のみが分泌障害を示す.2歳までに巨赤芽球性貧血*を発症する. 2)異常内因子症:生物学的に不活性な内因子を分泌するもの. 3)萎縮性胃炎*,胃萎縮:胃粘膜が後天的に萎縮性病変を起こすことによる壁細胞の消失,無酸症*,内因子分泌低下が認められるもの(William Bosworth Castleはアメリカの医師,1897生).
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の分泌障害に基づくビタミンB12*(VB12)吸収障害のためにVB12の欠乏をきたし,幼若造血細胞のDNA合成が阻害されることにより起こる貧血.成人型と先天型に分けられる.先天型は胃粘膜の萎縮は伴わずに胃内因子の産生のみが先天的に欠如する病型で,きわめてまれである.胃全摘後VB12を補充しないとVB12の欠乏をきたして同様の貧血が起こる.成人型は白人に多く,黄色人種,黒人の順に頻度は低下する.好発年齢は60歳代,20歳以下の発症はきわめてまれである.〔臨床所見〕 貧血症状のほかに消化器症状(舌の疼痛・発赤・乳頭萎縮,食欲不振,下痢,便秘など),神経・精神所見(しびれ感などの知覚異常,腱反射の減弱,位置覚・振動覚の減弱など),黄疸,出血,毛髪異常などがある.〔検査所見〕
末梢血で大球性高色素性貧血を呈する.好中球の過分節が認められ,好中球数,血小板数の減少を示すこともある.骨髄像では赤芽球系の過形成,巨赤芽球を認める.顆粒球系細胞も大型となり,とくに後骨髄球において著明である.多核の巨核球を認めることもある.このような巨赤芽球性造血を示す骨髄では,血球の成熟過程の途中で崩壊し(無効造血*),
無効造血
ムコウゾウケツ
【英】ineffective
erythropoiesis
【独】ineffektive
Erythropoiese
【仏】e´rythropoi¨e`se pe´rime´e
骨髄において赤芽球が成熟赤血球になって放出される以前に,骨髄で幼若赤血球が破壊されることをいう.一般に59Feを用いたフェロキネティクスferrokineticsで,血漿鉄消失時間plasma iron disappearance time(PID)の短縮があり,血漿鉄交代率plasma iron turnover rate(PITR)の増加があるにもかかわらず,赤血球鉄利用率%red cell iron utilization(%RCIU)が減少していることにより証明される.典型的な無効造血のみられる疾患は,鉄芽球性貧血*sideroblastic anemiaや骨髄異形成症候群*myelodysplastic
syndrome(MDS),
骨髄異形成症候群
コツズイイケイセイショウコウグン
【英】myelodysplastic
syndrome(MDS)
同義語:dysmyelopoietic
syndrome
血球の異形成,すなわち骨髄および末梢血における血球の数量的ならびに質的異常を特徴とする病態.異常は単一の血球系統にとどまらず,赤血球,顆粒球および血小板の3系統すべて,あるいは2系統が種々の組み合わせで異常を呈する.骨髄が正形成または過形成であるにもかかわらず,末梢血では貧血,血球2系統の減少,もしくは汎血球減少〔症〕*がある.FAB分類*では,骨髄および末梢血の芽球百分率,環状鉄芽球百分率,末梢血単球数およびアウエル小体の有無を基準として, 1)不応性貧血refractory anemia(RA), 2)環状鉄芽球陽性不応性貧血RA with ring sideroblasts, 3)芽球過剰性不応性貧血RA with excess of blasts(RAEB), 4)慢性骨髄単球性白血病*chronic myelomonocytic
leukemia(CMML),および5)移行期芽球過剰性不応性貧血RAEB in transformationの5病型に分ける.FAB分類の骨髄異形成症候群は骨髄の骨髄芽球百分率が30%未満と定義されており,したがってここには,従来の前白血病*preleukemiaから,亜急性骨髄性白血病,くすぶり型〔骨髄性〕白血病*smoldering
myeloid leukemia,非定型白血病*atypical leukemiaなどの一部までが含まれる.
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巨赤芽球性貧血*megaloblastic
anemiaである.
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末梢血中に流出する血球数が減少している.無効造血の反映として血清ビリルビン(とくに間接型)の上昇,尿中・糞便中のウロビリノーゲン排泄増加,血清LDHの上昇が認められる.血清VB12の低値,メチルマロン酸の尿中排泄増加などのVB12欠乏の所見が認められる.最大刺激による胃液検査で無酸症を示し内因子分泌は著明に低下している.内視鏡*,生検などにより胃粘膜の萎縮像が認められる.シリングテスト*Schilling testでは内因子欠乏の所見を呈する.胃の自己免疫現象として内因子抗体が60%の症例に,壁細胞抗体が90%症例に認められる.〔治療〕 VB12の投与により造血病態は正常化するが,胃粘膜病変は不変である.
悪性貧血(Pernicious
Anemia)
定義と概要
悪性貧血とは自己免疫性の慢性萎縮性胃炎に伴い、胃壁細胞が産生する内因子(Intrinsic Factor)の減少によってビタミンB12の吸収が障害されることで生じる巨赤芽球性貧血の一種です。
内因子は胃の壁細胞から分泌され、ビタミンB12と結合して回腸での吸収を助けます。内因子が不足するとDNA合成障害を引き起こし、巨赤芽球性貧血が発症します。
病態生理
- 自己免疫反応によって胃壁細胞および内因子に対する抗体が産生され、壁細胞が破壊される。
- ビタミンB12欠乏により、DNA合成に必要な代謝経路が障害され、赤血球前駆細胞の分裂異常(巨赤芽球化)を招く。
主な症状
- 貧血症状:動悸、息切れ、倦怠感、めまいなど。
- 神経症状:両手足のしびれ、バランス障害、認知機能低下、歩行困難など。
- 消化器症状:舌炎(ハンター舌炎)、食欲不振、下痢や便秘など。
診断
- 血液検査
- Hb・赤血球数・Htの減少、MCV上昇(>100
fL)。
- 血清ビタミンB12濃度低下(
- 血清葉酸測定も併せて行い、併存を評価。
- 自己抗体検査
- 胃内視鏡・組織生検
治療
- 筋肉内注射:初期は毎日または隔日で投与し、症状改善後は週1回→月1回へ。
- 経口高用量投与(1,000–2,000 μg/日)でも吸収効果が期待できると報告あり。
- 治療継続中は鉄貯蔵指標もフォローし、二次性鉄欠乏に注意。
予防と日常生活への注意
- 動物性食品(赤身肉、魚介類、卵、乳製品など)をバランスよく摂取し、B12欠乏を防ぐ。
- 40歳以上や既往歴のある方は年1回の血液検査推奨。
将来展望
- 経口・舌下投与など患者負担を低減する投与法の有効性検証が進行中。
- 遺伝子多型解析やプロトンポンプ阻害薬との併用研究など、個別化医療の可能性が期待されます。
引用文献
MCSG「悪性貧血とは何か?その他の貧血との違いについて徹底解説」
[血液検査・診断・治療法]Chigasaki-localtkt.com「ビタミンB12欠乏症と悪性貧血の症状と治療」
Wikipedia「悪性貧血」
悪性貧血の予防策
悪性貧血は自己免疫機序で胃の壁細胞が破壊され、内因子が減少してビタミンB₁₂吸収が障害される疾患です。そのため「根本的に自己免疫反応を抑制して完全に予防する」ことは難しい一方で、ビタミンB₁₂欠乏や萎縮性胃炎の進行を抑え、早期に発見する対策は可能です。
1. バランスの良い食事
- 動物性食品を適度に摂取
・レバー、赤身肉、魚介類、卵、乳製品にはビタミンB₁₂が豊富です
- 植物性中心の食事(ビーガン・ベジタリアン)の方
・B₁₂強化食品(シリアル、植物性ミルクなど)やサプリメントを活用
2. リスク要因の管理
- ヘリコバクター・ピロリ感染の早期除菌
- 長期プロトンポンプ阻害薬(PPI)やメトホルミン使用時の注意
・定期的に血清ビタミンB₁₂、ホモシステイン、メチルマロン酸(MMA)をチェック
3. 定期的なスクリーニング
- 年齢・家族歴・自己免疫疾患の既往がある人は年1回程度の血液検査
・赤血球数、MCV、血清B₁₂、MMA、ホモシステインの測定
- 萎縮性胃炎が確認された場合は胃内視鏡検査で経過観察
4. サプリメント・補充療法
- リスク群(高齢者、胃切除後、炎症性腸疾患患者など)には経口高用量B₁₂
・1,000–2,000 µg/日を数回/週で内因子非依存的吸収を狙う
- 定期注射療法が難しい場合は舌下投与や経口投与を検討
5. 漢方的アプローチと生活の工夫
- 六君子湯など「脾胃を養う」処方で消化吸収をサポート
- よく噛んで唾液分泌を促し、胃酸・内因子の分泌を助ける
次に知っておきたいこと
- 低用量免疫療法を用いた“自己免疫制御”の将来展望
- 腸内フローラとB₁₂吸収性の関連を解明する最新研究
- HLA遺伝子多型と自己免疫リスク評価を組み合わせた個別化予防
これらの視点を踏まえると、ビタミンB₁₂欠乏の早期発見・早期介入だけでなく、胃粘膜の健康維持や自己免疫機序の制御に向けたアプローチが次第に整ってきます。日常の食事・生活習慣と定期検査を組み合わせて、悪性貧血のリスクを最小化しましょう。
悪性貧血の主な症状
悪性貧血はビタミンB₁₂吸収障害による巨赤芽球性貧血で、貧血症状に加え神経や粘膜にも特徴的な異常が現れます。以下のカテゴリに分けて整理します。
1. 全身症状
- 動悸、息切れ、呼吸困難
- 倦怠感、易疲労感
- めまい、立ちくらみ
- 顔色不良(皮膚蒼白や黄疸)が見られることもある
2. 神経症状
- 四肢のしびれ感やチクチクする痛み
- 痛覚・振動覚・位置覚の鈍麻
- 歩行時のバランス障害(失調歩行)
- 手足の筋力低下、痙性(スパスム)
- 認知機能低下や気分変調(記憶障害、抑うつ傾向)
3. 消化器・口腔粘膜症状
- 舌炎(舌が赤く腫れる、ピリピリした痛み)
- 食欲低下、悪心、嘔吐
- 下痢や便秘を繰り返す
- 胃部不快感(慢性萎縮性胃炎を伴う場合が多い)
4. その他の特徴
- 体重減少や発熱など、炎症性疾患を疑わせる症状
- 出血傾向(重度の貧血で皮下出血斑が増えることがある)
- 心拍数増加や心雑音(貧血性心不全の前兆)
次に深掘りしたい関連情報
- 症状の現れ始めるタイムラインと経過
- 症状と血液検査データ(MCV、網状赤血球数など)の相関
- 他の巨赤芽球性貧血との鑑別ポイント
- 神経症状の可逆性と早期治療の重要性
- 臨床像に基づく検査フローと診断アルゴリズム
これらを押さえることで、悪性貧血を早期に発見し、不可逆的な神経障害を防ぐ一助となります。次回は検査や診断の詳細に踏み込みましょう。
悪性貧血と他の巨赤芽球性貧血の違い
巨赤芽球性貧血は「DNA合成障害」によって赤血球前駆細胞が巨大化する貧血を指し、主にビタミンB₁₂欠乏(B₁₂欠乏性)と葉酸欠乏(葉酸欠乏性)の2大カテゴリーに分かれます。そのうち悪性貧血は「自己免疫性萎縮性胃炎による内因子欠損→B₁₂吸収障害」を原因とする、B₁₂欠乏性巨赤芽球性貧血の一種です。
巨赤芽球性貧血の主な分類と原因
悪性貧血の特徴
- 原因:自己免疫性胃炎により胃壁細胞が破壊され、内因子(IF)が減少 → 回腸でのB₁₂吸収障害
- 抗体:抗壁細胞抗体・抗内因子抗体が陽性
- 神経症状:脊髄後索・側索が障害されやすく、しびれや運動失調、認知機能低下などが目立つ
- 検査異常:血清MMA(メチルマロン酸)↑、ホモシステイン↑、B₁₂低下、MCV↑(>100 fL)
- 胃内視鏡:慢性萎縮性胃炎による粘膜菲薄化・壁細胞消失を認める
葉酸欠乏性巨赤芽球性貧血の特徴
- 原因:食事(野菜不足)、妊娠高需要、抗てんかん薬などの薬剤誘発
- 神経症状:基本的に認めない(B₁₂欠乏に特有の神経障害を起こさない)
- 検査異常:血清葉酸低下、MMA正常/ホモシステイン↑、MCV↑
- 対応:葉酸補充に迅速に反応
その他のB₁₂欠乏性巨赤芽球性貧血のポイント
- 原因:食事性(完全菜食)、回腸切除や慢性腸疾患による吸収障害、膵外分泌不全
- 抗体:陰性
- 神経症状:認めるが悪性貧血ほど自己免疫性の中枢神経障害は強くない場合が多い
- 検査異常:MMA↑/ホモ↑、B₁₂低下、MCV↑
- 治療:原因に応じて内服または注射によるB₁₂補充
引用
- 巨赤芽球性貧血と悪性貧血の違い
悪性貧血の治療法
1. ビタミンB₁₂補充療法
- 筋肉内注射(シアノコバラミンまたはヒドロキソコバラミン)
初期強化期に週1~2回、改善後は週1回→月1回へと漸減し、生涯にわたって継続します。
- 経口高用量内服療法
1,000~2,000 µg/日を服用すると、内因子非依存的に吸収されるため通院負担を軽減できます。
- 舌下投与・点鼻投与
舌下錠や点鼻製剤を用いることで患者の自己管理がしやすくなり、バイオアベイラビリティも十分に確保されます。
2. 投与スケジュール例
3. モニタリングとフォローアップ
- 血液検査:
Hb、MCV、網状赤血球数で貧血回復を評価し、血清B₁₂、MMA、ホモシステインで欠乏の是正を確認します。
- 神経症状の評価:
しびれや運動失調、認知機能の改善状況を定期的にチェック。
- 鉄代謝指標:
フェリチン、血清鉄、TIBCを測定し、二次性鉄欠乏が起きていないか確認します。
4. 合併療法・注意点
- 葉酸補充との併用:
葉酸投与のみでビタミンB₁₂欠乏が隠れると神経障害が進行するため、B₁₂治療と並行して行います。
- 妊娠・授乳期:
高用量B₁₂は安全性が高く、母体および胎児・乳児の正常発育をサポートします。
- 早期介入の重要性:
神経障害が固定化すると不可逆的となるため、貧血改善と並行して速やかに治療を開始します。
5. 将来の治療アプローチ
- 低用量免疫寛容療法による自己免疫制御
- 腸内細菌叢を標的としたB₁₂吸収改善
- 遺伝子多型に基づく個別化投与設計
これらの新規戦略はまだ研究段階ですが、将来的には患者ごとの免疫背景や吸収能力に合わせた最適化治療が期待されます。
悪性貧血治療の副作用・リスク
悪性貧血に対するビタミンB₁₂補充療法は比較的安全ですが、稀に以下のような副作用やリスクが報告されています。
1. ビタミンB₁₂投与に伴う急性副作用
- 発疹、じんましん、呼吸困難、アナフィラキシー;初回投与時は観察が必要
2. 低カリウム血症(Refeeding-like
syndrome)
- 急速な赤血球回復にともない細胞内へのカリウム移動が増え、血中カリウム値が低下
- 倦怠感、筋力低下、痙攣、心電図変化(QT延長など)を来す恐れ
- 特に高度貧血の重度例で注意が必要
3. 長期的・間接的リスク
- 治療開始が遅れると脊髄後索・側索損傷が固定化し、しびれや運動失調が回復困難に
- 赤血球新生の回復で体内鉄需給バランスが変動。鉄過剰例では肝障害や心機能障害のリスク増
- B₁₂単独投与で貧血所見が改善すると、同時に存在する葉酸欠乏が見逃され、神経症状を悪化させる可能性
4. モニタリングと対策
- 初回~強化期
- 投与後24時間はアレルギーや注射部位反応を観察
- 造血反応に合わせて電解質(特にK⁺)をチェック
- 維持期以降
- 定期的に血清B₁₂、MMA、ホモシステインで補充効果を確認
- フェリチンや血清鉄・TIBCで鉄代謝を評価
- 葉酸値を同時測定し、併存欠乏を見逃さない
- 神経症状評価
- しびれや歩行障害の経過を細かくモニタリングし、不可逆性損傷の予防を最優先に
5. 患者教育と生活指導
- 注射後の安静や食事制限は不要だが、異常を感じたら速やかに医療者へ報告
- 高齢者や複数薬使用者は特に低カリウム血症と神経症状の徴候に注意
- サプリメント服用中の他薬(抗てんかん薬、PPI、メトホルミンなど)との相互作用を確認
次に取り上げたいテーマ
- 免疫寛容療法による自己抗体抑制の臨床展開
- 腸内フローラ操作で内因子非依存的にB₁₂吸収を高める新戦略
- 遺伝子多型を反映した個別化ビタミンB₁₂投与設計
これらのアプローチはまだ研究段階ですが、将来の悪性貧血管理を大きく進歩させる可能性を秘めています。