酵素-5(な)
に 乳酸ラセマーゼ
乳酸ラセマーゼ(lactate racemase)は、乳酸の2つの立体異性体の間の相互変換を触媒する酵素である。 (S)-乳酸 (R)-乳酸
分布乳酸菌のうちLactobacillus sakei、Lactobacillus curvatus、Lactobacillus plantarumなど数種で知られている。また乳酸菌以外でもクロストリジウム(嫌気性真正細菌)や特定の好塩古細菌などで活性が示されている[1]。なお乳酸ラセマーゼをコードするlarA遺伝子自体は広範な原核生物から見出されている[2]。 構造と性質酸化に強い感受性があるため生化学的研究はほとんど行われていない[1]。1968年にL. sakeiの乳酸ラセマーゼを用いた研究があり、分子量およそ25kDaで鉄イオンの関与が示唆されていた[3]。一方2014年になってL. plantarumの乳酸ラセマーゼの遺伝子larAが同定されたが、それによれば分子量はおよそ46kDaで活性にニッケルを要求する[2]。 反応機構C. beijerinckiiでは、酵素のスルフヒドリル基にα-カルボニル中間体が共有結合する機構で酵素が働くという証拠が得られている[4]。 L. sakeiから精製した乳酸ラセマーゼは乳酸脱水素酵素活性は示さない[3]。またこの酵素は、AMP、オキサミン酸、アタブリン、アデノシン一硫酸塩、シアニド、そしていくつかの鉄キレート剤で阻害されることが分かっている。この酵素で触媒される化学反応は、D型とL型の存在量が等モルになった点で平衡に達する[3]。 L. plantarumでは、最初にL-乳酸が生成され、乳酸ラセマーゼの活性を誘導する。乳酸ラセマーゼはL-乳酸の不存在下では発現しない。酵素の活性が誘導されると、D-乳酸が生成されるようになり[1]、最終的にほぼ等量のD-乳酸とL-乳酸が生成し、平衡に達する。この種では、lar活性は、D-乳酸によって抑制され、larオペロン活性はL-乳酸によって正の制御を受ける。つまり、larオペロン活性は、L-乳酸/D-乳酸比によって制御されることになる。 重要性L. plantarumにおけるピルビン酸の乳酸への代謝には、2つの経路が存在する。その1つはNAD依存性乳酸脱水素酵素によりD-乳酸を生成するもので、もう1つは乳酸ラセマーゼによるものである。乳酸脱水素酵素が不活化または阻害された場合、乳酸ラセマーゼは細菌のD-乳酸生成の救出経路として働く[1]。L. plantarumにおけるD-乳酸生成は、細胞壁の生合成と関係しているため、この働きは重要である。実際に、乳酸脱水素酵素を欠き、L-乳酸のみを生成するlarオペロンを持つ変異体では、ペプチドグリカン生合成が起こらなかった。 出典
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ぬ ヌクレアーゼ ヌクレアーゼ(Nuclease)は核酸分解酵素の総称。デオキシリボ核酸ないしリボ核酸の糖とリン酸の間のホスホジエステル結合を加水分解してヌクレオチドとする。 RNAを分解するリボヌクレアーゼとDNAを分解するデオキシリボヌクレアーゼに分類できる他、両方を分解することができるヌクレアーゼも知られており、その役割も様々である。ウイルスが有するヌクレアーゼには宿主の核酸を分解して自らの核酸の原料とする役割をもつものがある。また、制限酵素もヌクレアーゼの一種であり、これは外来の核酸を分解してウイルスの感染、増殖を防ぐ役割があると考えられている。核酸がメチル化されているとヌクレアーゼは働かなくなるため、自分の核酸を無闇に分解しないようにこの酵素を有する細菌も多い。多細胞生物においては死滅した細胞の核酸を分解するためにヌクレーゼが生産されることがあるほか、特殊な例としては紫外線などの影響で二量化したチミジンをとりはずすためのヌクレアーゼが存在する。 分解の型式により、エンドヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼという分類もできる。 エンドヌクレアーゼ(英:endonuclease) 核酸配列の内部(endo-)で核酸を切断する酵素で、すなわち糸を途中で切るように核酸を切断する。制限酵素は代表的なエンドヌクレアーゼである。 エキソヌクレアーゼ(英:exonuclease) 核酸配列の外側(exo-)から、すなわち核酸の5'端または3'端から削るように分解する。DNAポリメラーゼにもエキソヌクレアーゼ活性があるが、それはDNA複製中のミスを校正するためであると考えられている。 |
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ね ネオプルラナーゼ
検索 ネオプルラナーゼ(Neopullulanase、EC 3.2.1.135)は、プルランに作用しパノース(6-α-D-グルコシルマルトース)を遊離する化学反応を触媒する加水分解酵素である[1]。 系統名はプルラン 4-D-グルカノヒドロラーゼ(パノース形成)(pullulan 4-D-glucanohydrolase (panose-forming))。
概要 2 関連項目 3 出典 4 外部リンク
概要 1988年に、Bacillus stearothermophilus TRS40の生産するプルラン分解酵素が、プルランのα-1,4グルコシド結合を加水分解し、α-パノースを生成することが見いだされた[1]。この酵素の基質特異性はTVAと同じであったが、TVAと比べて澱粉の加水分解力が小さかったことから、ネオプルラナーゼと命名された。この酵素もTVAと同様に、α-1,4結合の他にもα-1,6結合をも加水分解できること、糖転移できることが明らかとされた[2]。
関連項目[編集] プルラナーゼ(EC 3.2.1.41) イソプルラナーゼ(EC 3.2.1.57) 加水分解酵素 出典 ^ a b Imanaka, T. and Kuriki, T. (1989). “Pattern of action of Bacillus stearothermophilus neopullulanase on pullulan”. J. Bacteriol. 171: 369-374. PMID 2914851. ^ 『澱粉の科学と技術』 ISBN 978-4990528706 外部リンク Neopullulanase - MeSH、米国国立医学図書館、生命科学用語シソーラス (英語サイト) カテゴリ: EC 3.2.1酵素加水分解酵素 |
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ひ PI3キナーゼPI3キナーゼ(英: Phosphoinositide 3-kinase, PI3K、EC 2.7.1.137)は、イノシトールリン脂質のイノシトール環3位のヒドロキシル基(-OH基)のリン酸化を行う酵素である[1]。イノシトールリン脂質は真核生物の細胞膜を構成する成分の一つであり、PI3Kをはじめとしたキナーゼ(リン酸化酵素)の触媒作用を受けてホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸 PtdIns(3,4,5)P3となり、プロテインキナーゼB(PKB)/Aktを活性化を起こす。このシグナル伝達経路はPI3キナーゼ-Akt経路と呼ばれ、様々な生理作用の発現に関与する。特にインスリンの分泌促進に深く関与することから[2]、新たな糖尿病薬の開発が示唆されている[3]。 分類PI3キナーゼは構造によりクラスI・クラスIIおよびクラスIIIの3つのクラスに分類される。 クラスI
クラスI PI3Kはヘテロ二量体であり、シグナル伝達において重要な役割を果たす。これらはアミノ酸配列の相同性からクラスIAとクラスIBにさらに分けられる。クラスIAは p110α、β およびδからなり、調節サブユニットであるp85α、p55α、p50α、p85βおよびp55γと結合している。これらの調節サブユニットのうちp85αの発現が最も高い。p85α、p55α、p50αは同一遺伝子(Pik3r1)のスプライシングバリアントであり、p85βとp55γはそれぞれPik3r2およびPik3r3遺伝子に由来する。クラスIAはPKBの活性化に関与している。一方、クラスIB PI3Kであるp110γは哺乳類においてのみ発現が見られ、Gタンパク質のβγサブユニットやp101によってその機能を調節される。クラスIBのPI3キナーゼは主にGタンパク質共役受容体(GPCR)からの刺激により活性化され、PtdIns(3,4)P2のリン酸化により産生されたPtdIns(3,4,5)P3は細胞内情報伝達機構においてセカンドメッセンジャーとして機能する。 クラスII・クラスIIクラスIIにはα、βおよびγの4つが存在するが、いずれも調節サブユニットを有さず単量体で酵素活性を示す。クラスIと比較してPtdInsとPtdIns(4)Pに対する基質特異性が高い。クラスIIの機能や活性化機構についてはまだ議論の余地がある。 また、クラスIII PI3KはPtdInsからPtdIns(3)Pを産生し機能的にはクラスIIに近いが、構造的にはクラスIにより類似しておりヘテロ二量体を形成して機能する。クラスIII PI3Kはタンパク質輸送などに関与している。 活性化経路細胞に何らかの刺激が入るとTyr-X-X-Met(YXXM、X=任意のアミノ酸)モチーフを有する分子に対して調節サブユニットであるp85がSH2ドメインを介して結合する。調節サブユニットは2つのプロリンに富んだ領域(PRMモチーフ)を有しており、p110との結合に関与している[4]。活性化したPI3Kは細胞膜においてPtdIns(3,4,5)P3を産生する反応に関与するが、PKBを活性化する経路にはPtdIns(3,4,5)P3がPKBを活性化する直接的な経路と間接的経路が存在する。間接的経路においてはPtdIns(3,4,5)P3がPDK1(3-phosphoinositide-dependent protein kinase-1)と呼ばれるプロテインキナーゼをリクルートし、PKBのリン酸化を行う。さらにPDK2によるPKBのカルボキシル基側末端側ドメインのリン酸化も行われ、PKBは細胞膜から遊離する。 機能PI3Kの機能はイノシトールリン脂質をリン酸化することにより、3位がリン酸化されたホスファチジルイノシトールを生成する反応を触媒することである。この反応による生成物としてPtdIns(3)P、PtdIns(3,4)P2、PtdIns(3,5)2、PtdIns(3,4,5)P3が挙げられる。PI3Kの活性化はその下流にある分子を介して細胞分化・増殖や代謝、細胞遊走、細胞骨格の再構築など多様な生物活性を引き起こすことが知られている。インスリン受容体により活性化されたPI3Kは特に細胞へのグルコースの取り込みやタンパク質およびグリコーゲンの合成に関与している。PtdIns(3,4,5)P3をはじめとしたPI3K産物はPKBやプロテインキナーゼδ1などのプレクストリン相同ドメイン(PHドメイン)、PXドメイン、FYVEドメインなどの配列を持つタンパク質に対して結合し下流にシグナルを伝えることが知られる[5][6]。p110αおよびβは全ての細胞において発現しており、遺伝子工学的な手法によりこれらの遺伝子を欠失させたマウス(ノックアウト(KO)マウス)は胎生致死となることが報告されている[7][8]。p110γは好中球やマクロファージの遊走[9][10]や肥満細胞の脱顆粒反応[11]に関与している。癌細胞においてはクラスIAのp110αに変異が生じていることがあり、酵素活性の上昇が見られる。PTENはPtdIns(3,4,5)P3を脱リン酸化する酵素であり、PI3Kの機能に対して拮抗的に働くことにより抗癌化作用を示す。また、p110δは主に白血球などの免疫系細胞において発現がみられる。 阻害薬
PI3K阻害薬としてワートマニン(Wortmannin)やLY294002などの薬物が存在するが高濃度で生体に投与した際に種々の毒性を発現することが知られている。近年では新規PI3K阻害薬であるAS605240やZSTK474、PI3Kδ特異的阻害薬であるIC486068やIC87114は毒性が少ないことから治療薬としての応用が検討されている。 出典
参考文献1. ^ Vanhaesebroeck B, Leevers SJ, Ahmadi K, Timms J, Katso R, Driscoll PC, Woscholski R, Parker PJ and Waterfield MD.(2001)"Synthesis and function of 3-phosphorylated inositol lipids."Annu.Rev.Biochem. 70,535-602. PMID 11395417 2. ^ Kaneko, Kazuma; Ueki, Kohjiro; Takahashi, Noriko; Hashimoto, Shinji; Okamoto, Masayuki; Awazawa, Motoharu; Okazaki, Yukiko; Ohsugi, Mitsuru; Inabe, Kazunori; Umehara, Toshihiro; Yoshida, Masashi; Kakei, Masafumi; Kitamura, Tadahiro; Luo, Ji; Kulkarni, Rohit N.; Kahn, C. Ronald; Kasai, Haruo; Cantley, Lewis C.; Kadowaki, Takashi (2010-12-01) "Class IA Phosphatidylinositol 3-Kinase in Pancreatic β Cells Controls Insulin Secretion by Multiple Mechanisms" Cell Metabolism 12(6):619-632, doi:10.1016/j.cmet.2010.11.005 3. ^ 日本放送協会、2010年12月6日「糖尿病関わるたんぱく質特定 」『NHKニュース』2010年12月6日参照 4. ^ Otsu M, Hiles I, Gout I, Fry MJ, Ruiz-Larrea F, Panayotou G, Thompson A, Dhand R, Hsuan J, Totty N, et al.(1991)"Characterization of two 85 kd proteins that associate with receptor tyrosine kinases, middle-T/pp60c-src complexes, and PI3-kinase."Cell. 65, 91-104. PMID 1707345 5. ^ Stephens L, Anderson K, Stokoe D, Erdjument-Bromage H, Painter GF, Holmes AB, Gaffney PR, Reese CB, McCormick F, Tempst P, Coadwell J and Hawkins PT.(1998)"Protein kinase B kinases that mediate phosphatidylinositol 3,4,5-trisphosphate-dependent activation of protein kinase B."Science., 279, 710-14. PMID 9445477 6. ^ Anderson KE, Coadwell J, Stephens LR and Hawkins PT.(1998)"Translocation of PDK-1 to the plasma membrane is important in allowing PDK-1 to activate protein kinase B."Curr.Biol. 8,684-91. PMID 9637919 7. ^ Bi L, Okabe I, Bernard DJ, Wynshaw-Boris A and Nussbaum RL.(1999)"Proliferative defect and embryonic lethality in mice homozygous for a deletion in the p110alpha subunit of phosphoinositide 3-kinase."J.Biol.Chem. 274,10963-8. PMID 10196176 8. ^ Bi L, Okabe I, Bernard DJ and Nussbaum RL.(2002)"Early embryonic lethality in mice deficient in the p110beta catalytic subunit of PI 3-kinase."Mamm.Genome. 13,169-72. PMID 11919689 9. ^ Sasaki T, Irie-Sasaki J, Jones RG, Oliveira-dos-Santos AJ, Stanford WL, Bolon B, Wakeham A, Itie A, Bouchard D, Kozieradzki I, Joza N, Mak TW, Ohashi PS, Suzuki A and Penninger JM.(2000)"Function of PI3Kgamma in thymocyte development, T cell activation, and neutrophil migration."Science. 287,1040-6. PMID 10669416 10. ^ Del Prete A, Vermi W, Dander E, Otero K, Barberis L, Luini W, Bernasconi S, Sironi M, Santoro A, Garlanda C, Facchetti F, Wymann MP, Vecchi A, Hirsch E, Mantovani A and Sozzani S.(2004)"Defective dendritic cell migration and activation of adaptive immunity in PI3Kgamma-deficient mice."EMBO J. 23,3505-15. PMID 15318168 11. ^ Laffargue M, Calvez R, Finan P, Trifilieff A, Barbier M, Altruda F, Hirsch E and Wymann MP.(2002)"Phosphoinositide 3-kinase gamma is an essential amplifier of mast cell function."Immunity. 16,441-51. PMID 11911828 |
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ヒアルロニダーゼ この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。 出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。(2016年6月)
ヒツジ由来のヒアルロニダーゼ ヒアルロニダーゼ (Hyaluronidase) は、ヒアルロン酸を分解する酵素である。EC番号は3.2.1.35、CAS登録番号は488712-31-8。 ヒアルロン酸を加水分解することによって粘度が低下するが、ヒアルロン酸は間質組織の主成分であるため、組織の浸透性が増加する。そのため、体内での分散を容易にする目的で薬に混ぜて服用されることがある。特に、眼科の手術で局所麻酔とともによく用いられる。また、皮下注入による非経口的液体の吸収率や尿路造影のための放射線不透過性を増加させる目的でも用いられる。さらに、高張液を管外遊出させる目的で用いられることもある。 黄色ブドウ球菌や化膿レンサ球菌、ウェルシュ菌などのある種の細菌も、組織内での運動性を増加させるためや抗原偽装のため、ヒアルロニダーゼを産生する。 多くの哺乳類の受精では、ヒアルロニダーゼは精子が卵細胞に到達した時に先体から放出され、透明帯を消化して中に侵入することを可能にする。 商業用の動物由来のヒアルロニダーゼとしては、Vitrase (ISTA Pharmaceuticals)、Amphadase (Amphastar Pharmaceuticals)、Wydaseなどが販売されている。2005年12月2日に、アメリカ食品医薬品局はヒト由来の組み換えヒアルロニダーゼであるHylenexを認可した。 |
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非競合阻害非競合阻害(ひきょうごうそがい、英: non-competitive inhibition)、非拮抗阻害、非競争阻害は、阻害剤が酵素の活性を減少させ、酵素に基質が結合しているかいないかにかかわらず同じようによく結合する酵素阻害機構の一種である[1]。 基質が結合しているかいないかにかかわらず阻害剤が酵素に結合できるが、一方の状態に対して他方より高い親和性を示す場合は、混合型阻害剤と呼ばれる[1]。 用語全ての非競合阻害剤は酵素のアロステリック部位(すなわち活性部位以外の場所)に結合するが、アロステリック部位へ結合する全ての阻害剤が非競合阻害剤ではないことを注記しておくことが大切である[1][2]。実際、アロステリック阻害剤は競合、非競合、不競合阻害剤として作用しうる[1]。 多くの文献はこれら2つの用語を一緒にしたり[3][4]、アロステリック阻害の定義を非競合阻害の定義として記し続けている。 機構
非競合阻害は、どんなときでも阻害剤ならびに基質が共に酵素に結合できる系のモデルを作る。基質と阻害剤の両方が結合する時、酵素-基質-阻害剤複合体は生成物を作ることができず、酵素-基質複合体あるいは酵素-阻害剤複合体に戻ることだけができる。非競合阻害は一般的な混合型阻害とは阻害剤が酵素と酵素-基質複合体に対して等しい親和性を有する点で区別される。 非競合阻害の最もよく見られる機構は、阻害剤のアロステリック部位への可逆的結合を含むが、活性部位への直接的結合を含むその他の方法によって阻害剤が作用することが可能である。競合阻害とは、阻害剤の結合が基質の結合を妨げず(逆もまた同様)、一定時間単純に生成物形成を妨げる点で異なっている。 この種の阻害は、基質に対する触媒の見かけの結合親和性(Kmapp – ミカエリス・メンテン式を参照)を変化させることなく、化学反応の最大速度を減少させる。 式非競合阻害剤の存在下、酵素の見かけの親和性は実際の親和性と等しい。ミカエリス・メンテン反応速度論の観点からは、Kmapp = Kmである。これはルシャトリエの原理の結果と見ることができる。阻害剤は酵素と酵素-基質複合体のどちらにも等しく結合できるため、平衡が維持される。しかしながら、一部の酵素は基質の生成物への変換を常に阻害されているため、酵素の有効濃度は低下する。 数学的には以下の通りである。 例: CYP2C9酵素の非競合阻害剤CYP2C9酵素の非競合阻害剤にはニフェジピン、トラニルシプロミン、フェネチルイソチオシアネート、6-ヒドロキシフラボンがある。コンピュータによるドッキングシミュレーションやアミノ酸置換変異体を用いた実験から、6-ヒドロキシフラボンの非競合結合部位は、CYP2C9酵素の報告されているアロステリック結合部位であることが示されている[5]。 脚注
参考文献
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プロテインキナーゼプロテインキナーゼ (Protein kinase; プロテインカイネース) は、タンパク質分子にリン酸基を付加する(リン酸化する)酵素である。タンパク質キナーゼあるいは英語風にプロテインカイネースとも呼ぶ。キナーゼ(リン酸基転移酵素)の中でタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと呼ぶが、このプロテインキナーゼのことを特にキナーゼと呼ぶことが多い(本記事では以後単にキナーゼという)。 概要細胞は、その機能を維持するため、細胞内のタンパク質をリン酸化、脱リン酸化する反応を繰り返している。このリン酸化によってタンパク質は酵素活性、細胞内での局在や他のタンパク質との会合状態を変化させる。細胞内の30%ものタンパク質がキナーゼによる変化を受け、細胞内における様々なシグナル伝達や代謝の調節因子として機能している。キナーゼ遺伝子はヒトゲノム中に約500種類があり、また真核生物の全遺伝子の約2%を占める。 キナーゼは、ATPのリン酸基をアミノ酸残基にあるヒドロキシ基に移動させ、共有結合させる活性を有する。キナーゼはアミノ酸のうち、主にセリン、スレオニン、チロシン残基をリン酸化させるが、キナーゼがリン酸化するアミノ酸の99%以上はセリン、スレオニンである(セリン/スレオニンキナーゼ)。しかし、0.1%に満たないチロシンのリン酸化(チロシンキナーゼ)の方が生物学的に重要なケースが多い。これら3種類すべてに反応するものや、またこのほかに微生物や植物ではヒスチジンのイミダゾール環窒素原子に反応するもの(ヒスチジンキナーゼ;EC 2.7.13に含まれる)もある。 キナーゼの活性は精密に調節されており、キナーゼ自身もリン酸化によってオン・オフ調節を受ける。これは他のキナーゼのみならず、自分自身によって行われることもあり、“自己リン酸化”という。これらの調節は他の活性化(または抑制)タンパク質や低分子化合物の結合、細胞内での局在変化などによって起きる。 キナーゼの機能異常は病気の原因になることも多い。特にがんに関して詳細な研究が行われており、キナーゼはがん細胞の増殖、移動、浸潤やアポトーシス(細胞死)の調節に関与する。特定のキナーゼを阻害することによって治療に役立てる薬物が開発されており、中にはゲフィチニブ(イレッサ®)やイマチニブ(グリベック®)のように、すでに臨床的に用いられているものもある。 セリン/スレオニンキナーゼセリン/スレオニンキナーゼ(Ser/Thr kinase; 読み:セリン/スレオニン カイネース、EC 2.7.11.*)はセリンまたはスレオニンのヒドロキシ基をリン酸化する。これらは によって調節される。これらのキナーゼの特異性は特定のアミノ酸配列に基づくものではなく、リン酸化される基質はキーとなる数個のアミノ酸(疎水結合やイオン結合による)でキナーゼと結合するから、普通、キナーゼはある性質を共有する「基質ファミリー」全体に対して特異的である。ほとんどのキナーゼは、本当の基質のようにキナーゼに結合するがリン酸化を受けるアミノ酸を欠くような「擬似基質」によって阻害される。擬似基質が取り除かれるとキナーゼは機能を取り戻す。これらのキナーゼの触媒部位は高度に保存されている。 セリン/スレオニンキナーゼには以前は一部を除いて独自のEC番号はなく、"EC 2.7.1.37"を用いていた。国際生化学分子生物学連合IUBMBの命名委員会(NC-IUBMB)によって見直しされ、2005年にそれぞれ独自のEC番号が割り当てられた。 ホスホリラーゼキナーゼホスホリラーゼキナーゼ(EC 2.7.11.19)は初めて発見された(1959年、エドヴィン・クレープスら)セリン/スレオニンキナーゼである。グリコーゲンホスホリラーゼ(グリコーゲンを加リン酸分解する酵素)を活性化する。 プロテインキナーゼAプロテインキナーゼA(AキナーゼまたはPKA、EC 2.7.11.11)は2つのドメインからなり、小ドメインはβシートを、大ドメインはαヘリックスを含む。基質とATPの結合部位は2つのドメインの間隙にある。ATPと基質が結合すると、2つのドメインは互いに回転するように動き、ATPの末端リン酸基と基質のターゲットアミノ酸が近寄って反応が起きやすい位置となる。 制御Aキナーゼは細胞内でcAMPによる調節を受け、グリコーゲン、糖、脂質の代謝の調節など、いくつかの機能を有する。cAMPがないときは4量体(調節サブユニット2個と触媒サブユニット2個:R2C2)からなり、調節サブユニットが触媒サブユニットの活性中心を封鎖している。cAMPが調節サブユニットに結合すると、2個のRCに解離し、これが活性を有する。また触媒サブユニット自体もリン酸化によって調節される。Aキナーゼは次のようなフィードバック機構によってダウンレギュレーションされる:Aキナーゼによって活性化される基質の1つにホスホジエステラーゼがあり、これはcAMPをAMPに変換し、cAMP量を下げてAキナーゼの活性を低下させる。グリコーゲンの分解においては、Aキナーゼがホスホリラーゼキナーゼをリン酸化して活性化し、さらにこれがグリコーゲンホスホリラーゼをリン酸化して活性化するのである。 プロテインキナーゼC概要
プロテインキナーゼC(プロテインキナーゼ・シー)あるいはPKC、Cキナーゼ (EC 2.7.11.13) は少なくとも10種類以上のアイソザイムから構成されるタンパク質ファミリーである。PKCは基質に存在するセリンおよびスレオニン残基のヒドロキシル基をリン酸化する。1977年に西塚泰美らによって発見された。PKCは、その構造、活性化機構、生理機能によって、在来型(conventionalあるいはclassical:α、βI、βII、γ)、新型(novel:δ、ε、η、θ)、非典型(atypical:ζ、λ/ι)の3つのサブファミリーに分類される。在来型PKCは主にカルシウムイオン(Ca2+)、ジアシルグリセロール (DAG, DG)、あるいはホスファチジルセリン (PS) などのリン脂質によって活性化される。新型PKCはカルシウムイオン結合活性を失っており、ジアシルグリセロールによる活性化を受ける。ジアシルグリセロールは細胞膜、核膜の構成成分であるホスファチジルイノシトール (PI) からホスホリパーゼCによって産生されるため、在来型・新型PKCはシグナル伝達経路においてホスホリパーゼCの下流に位置する。一方、非典型PKCはカルシムイオンおよびジアシルグリセロール結合活性を持たない。在来型PKCの1種であるCαを日本では特にCキナーゼと呼ぶことがある。 アイソザイム
構造と制御在来型PKCは、N末端側の調節領域とC末端側の触媒領域からなる。通常、PKCは調節領域に存在する偽基質領域による自己阻害作用のため不活性化状態で細胞質に存在し、セカンドメッセンジャー(カルシウムやジアシルグリセロール)によって活性化されると、細胞質に移行し基質をリン酸化する。 在来型PKCの調節領域には、連続した2つのC1ドメイン(ジアシルグリセロール結合ドメイン:C1AおよびC1B)とC2ドメイン(カルシウムイオン結合ドメイン)が存在する。新型PKCは、在来型と同様に連続した2つのC1ドメインを有しているが、在来型PKCのC2ドメインとホモロジーを有するC2 likeドメインはカルシウムイオンを結合しない。非典型PKCは1つのC1ドメインのみを有するが、ジアシアルグリセロール結合活性は失なわれている。すべてのPKCアイソザイムの触媒領域はATP結合ドメインとキナーゼドメインからなる。 例として、在来型PKCに共通する一次構造を示す: H2N – 偽基質領域 – C1A - C1B - C2ドメイン – ATP結合ドメイン (C3) – キナーゼドメイン (C4) - COOH 機能PKCのターゲット配列はAキナーゼのものに似ており、リン酸化を受けるセリン/スレオニン残基の近くに塩基性アミノ酸がある。基質にはMARCKS(Myristoylated alanine-rich C kinase substrate)タンパク質、MAPキナーゼ、転写因子阻害タンパク質であるIκB、ビタミンD3受容体(VDR)、Rafキナーゼ、カルパインや上皮成長因子受容体 (EGFR) があり、細胞内シグナル伝達において特に中心的な役割を担っていると考えられる。また、12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート (TPA) などの発がんプロモーターや抗がん剤として臨床試験が行われているブリオスタチン類の主要なターゲットとしても知られている。 PKCはがんやアルツハイマー病など様々な疾患に関与していることも明らかになっている。 Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼEC 2.7.11.17。カルモジュリン(CaM)キナーゼとも呼ばれ、主にCa2+/カルモジュリン複合体により活性化される。活性化に関して「記憶作用」、つまり活性化反応が終わっても活性化状態が長続きする性質がある。次の2つのタイプがある:
構造と自己調節CaMキナーゼはN末端側の触媒ドメイン、調節ドメイン、および付随ドメインからなる。Ca2+/カルモジュリンがない場合には触媒ドメインは調節ドメイン(基質に似た配列を含む)による自己抑制を受けている。CaMキナーゼはいくつかの分子が会合してホモオリゴマーまたはヘテロオリゴマーになっている。Ca2+/カルモジュリンによって活性化されると、CaMキナーゼ分子は互いにリン酸化しあう。これには2つの効果がある:
MAPキナーゼ
Mitogen-activated protein kinases(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ;EC 2.7.11.24)の略。細胞をマイトジェン(細胞増殖促進物質の総称)で処理した場合に活性化したことからこの名がついた。MAPKKKK => MAPKKK => MAPKK => MAPK (これは一般的な表記法でそれぞれKはキナーゼを意味するが、実際には色々な種類がある)というカスケードを形成して順次活性化され、最終的に転写因子をリン酸化して細胞周期や増殖を制御する。 Mos/RafキナーゼRafはGTP結合型(活性型)のRas(がん遺伝子産物)をはじめとする低分子型GTP結合タンパク質やCキナーゼなどによって活性化され、下流のMEKキナーゼをリン酸化して活性化する。Mosは動物卵の減数分裂で特異的に発現し、その活性(下流のMEK-MAPK-p90Rskを含む)は減数分裂の進行及び減数第二分裂での分裂停止(ヒトデ等の無脊椎動物は減数分裂直後のG1期停止)に必須とされる。これらのキナーゼ自体も元来、原がん遺伝子(c-mos、c-raf)産物として同定されたものである。 cdc2細胞周期の分裂期の制御因子として、分裂酵母、カエル、ヒトデなどいくつかの真核生物から独立に発見された。(2001年のノーベル生理学・医学賞の受賞対象となった研究である。)制御の仕方は生物により異なるが、いずれもサイクリンとよばれるタンパク質と結合することや、それ自身がリン酸化されることによって活性を持ち、特定の基質をリン酸化することで分裂期の特徴的な現象(核膜崩壊、染色体凝集、紡錘体の形成など)を制御する。 チロシンキナーゼチロシンキナーゼ(あるいは蛋白質チロシンキナーゼ、Protein Tyrosine Kinase; PTK、EC 2.7.10.*)はタンパク質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素である。多細胞生物のみに存在し、細胞の分化,増殖、接着、あるいは免疫反応などに関わるシグナル伝達に関与する。増殖因子が結合することによって活性化する受容体型と、増殖因子が結合しない非受容体型の2型に大別される。チロシンキナーゼが活性化されると、受容体自身、あるいは標的とするタンパクを特異的にリン酸化する。受容体自身の自己リン酸化により、このリン酸化部位を認識するさまざまなシグナル伝達因子が受容体に結合し、シグナル伝達が始まる。また標的タンパクのリン酸化により、細胞内のさまざまなタンパクが次々と活性化し、シグナル伝達が始まる。がんやアテローマ性動脈硬化症、乾癬などでは、過剰に活性化していることがある。 ヒトのチロシンキナーゼは100種類以上あると予想されている[1]が、その大半は機能が分かっていない。 受容体型チロシンキナーゼ細胞膜を膜貫する構造であり、細胞外に増殖因子の結合部位をもち、細胞質領域にチロシンキナーゼ活性部位をもつ。EC 2.7.10.1。増殖因子は哺乳動物では50種類以上が知られ、受容体型チロシンキナーゼは、この増殖因子の刺激を細胞内へのシグナルに変換し、細胞の分裂、分化、形態形成で重要な役割を演ずる。代表的なものを以下に挙げる。
構造受容体型チロシンキナーゼは、3つの領域からなる。増殖因子が結合する細胞外領域、細胞膜を貫通する疎水性膜貫領域、チロシンキナーゼ活性をもつ細胞内領域である。さらに細胞内領域は膜近傍領域、キナーゼ活性領域、C末端領域の3つに分けられる。インスリン受容体やインスリン様増殖因子のように、細胞外領域が分離独立し、ジスルフィド結合で受容体本体に結合する構造をとるものもある。膜貫領域は単一のαヘリックスからなる。 増殖因子が細胞外領域にある受容体に結合すると、受容体は活性化して細胞膜上を移動し、他の受容体に結合して二量体を形成する。同じ受容体同士が結合する(ホモダイマー)ことも、異なる受容体同士が結合する(ヘテロダイマー)こともある。 制御増殖因子の結合により2つの反応が起きる:
リン酸化を受けるアミノ酸がキナーゼドメインにいくつかある場合、リン酸化されたアミノ酸が多いほどキナーゼ活性は上昇する。この場合、最初のリン酸化はシス自己リン酸化といい、これでキナーゼは「オフ」から「スタンバイ」状態に切り替わる。 非受容体型チロシンキナーゼ代表的な構造は、細胞外領域をもたず、細胞内で細胞膜に結合し、細胞内の末端側にチロシンキナーゼ部位をもつ構造である。免疫グロブリンやサイトカイン等の結合部位を持ち,これらの刺激により活性化する。
ヒスチジンキナーゼヒスチジン特異的キナーゼ(EC 2.7.13.x)は構造的に他のキナーゼと異なりGHKL型kinase/ATPase スーパーファミリーに分類される。ヒスチジンキナーゼは原核生物のほか菌類と植物に見られ、「2成分系シグナル伝達」で機能する。ATPのリン酸基はまずキナーゼ分子のヒスチジン残基(イミダゾール環窒素原子)に移され、その後他のタンパク質(同じキナーゼ分子内のばあいもある)の「レシーバードメイン」にあるアスパラギン酸残基に移される(この段階ではATPのエネルギーは必要ない)。このようなリン酸の受け渡しがさらに繰り返されるばあいもある。その結果として転写制御などが行われる。リン酸化アスパラギン酸が活性型としてシグナルを伝達する。微生物では細胞外の状態(浸透圧、酸素や栄養分など)を感知するいろいろな受容体、植物では植物ホルモン(サイトカイニン、エチレン)受容体や光受容体などが知られる。 動物にあるピルビン酸脱水素酵素キナーゼは構造的にヒスチジンキナーゼに類似しているGHKL型kinaseであるが、ヒスチジンを介した2成分系シグナル伝達は行わず、ピルビン酸脱水素酵素のセリン残基を直接リン酸化する。 アスパラギン酸/グルタミン酸キナーゼEC 2.7.12.x 脚注1. ^ Plowman GD, Sudarsanam S, Bingham J, et al. "Review. The protein kinases of Caenorhabditis elegans: a model for signal transduction in multicellular organisms." Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 1999;96:13603-13610. PMID 10570119 関連項目外部リンク
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ヒストン脱アセチル化酵素ヒストン脱アセチル化酵素(-だつあせちるかこうそ;Histone Deacetylase(HDAC);EC 3.5.1)とはクロマチン構造において主要な構成因子であるヒストンの脱アセチル化を行う酵素である。遺伝子の転写制御において重要な役割を果たしている。ヒトでは、現在HDAC1-11,SirT1-7の18種類が同定されている。 概要遺伝子の発現は遺伝子の塩基配列によるもの以外にDNAあるいはヒストンに対する後付けの修飾により制御される場合がある(エピジェネティックな制御)。ヒストンはDNAが巻きついているコアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)とDNAのリンカー部分に結合しているリンカーヒストン(H1)に大別される。コアヒストンのアセチル化はエピジェネティックな遺伝子の制御において重要な役割を担っている[1]。 ヒストンはそのアミノ酸配列中にリジンやアルギニンなどの塩基性アミノ酸を多く含むため通常陽性に荷電しており、陰性に荷電しているDNAとの結合が容易である。細胞内のヒストンアセチル基転移酵素(英:Histone Acetyl Transferase、HAT)により行われるヒストンアセチル化はヒストン中の特定のリジン残基のアミノ基(-NH2)をアミド(-NHCOCH3)に変換することにより電荷を中和してしまうため、結果としてヒストン-DNA間の結合を部分的に弱める。このことはヒストンに対するDNAの巻きつきが弱くなることを意味し、隣り合ったヒストン-DNA複合体(ヌクレオソーム)同士をつないでいるDNA鎖(リンカーDNA)に対して転写因子やRNAポリメラーゼがより結合しやすい状態になる。ヒストン脱アセチル化とはこのアセチル化された部位を加水分解により除去し、元のアミノ基に戻すことによりヒストンへのDNAの巻きつきを強めて転写を抑制する反応であり、ヒストンアセチル化とは逆の機構である。ヒストン脱アセチル化反応はHDACにより行われる。 ヒストンでは、N末端のリシン残基がアセチル化、脱アセチル化され、これが遺伝子発現の制御に関わっている。ヒストンが多数アセチル化されている染色体領域は、遺伝子の転写が活発に行われており、ヒストンのアセチル化は遺伝子発現を活性化させ、脱アセチル化は遺伝子の発現を抑制していると考えられている[2][3]。 ヒストンは上記で述べたアセチル化の他にもリン酸化やメチル化による制御を受ける。HDACは細胞内情報伝達(Notchシグナリング等)や細胞周期の制御にも関与している。特に近年、HDACは癌治療の標的分子として注目されている[4]。 分類HDACは配列の相同性などにより4つのクラスに分類される。
HDAC阻害薬
脚注1. ^ Miremadi A,Oestergaard MZ,Pharoah PD and Caldas C.(2007)"Cancer genetics of epigenetic genes."Hum.Mol.Genet.16 SpecNo1 R28-49. PMID 17613546 2. ^ “アーカイブされたコピー”. 2012年12月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年6月14日閲覧。 3. ^ “アーカイブされたコピー”. 2012年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年6月14日閲覧。 4. ^ Suzuki T and Miyata N.(2006)"Epigenetic control using natural products and synthetic molecules."Curr.Med.Chem.13,935-58. PMID 16611076 参考図書
関連項目
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PTENPTEN(ピーテン、Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10)とはイノシトールリン脂質であるホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(PtdIns(3,4,5)P3)の脱リン酸化反応を触媒する酵素である。 PTEN遺伝子および分子の特徴PTENの構造。 PTEN遺伝子は1997年に腫瘍抑制因子として同定され[1][2]、染色体上の10q23.3に位置している。PTENタンパク質の構造中にはホスファターゼドメインとC2ドメインが含まれることがX線構造解析により明らかにされており、ホスファターゼドメインはPTENの酵素活性中心部位であり、C2ドメインは生体膜のリン脂質との結合に重要な部位である。PTENタンパク質は広く全身の細胞に発現しているが、特に上皮系の細胞に発現が高い。 機能イノシトールリン脂質であるPtdIns(3,4,5)P3はPI3キナーゼ(PI3K)により細胞内で合成され、プロテインキナーゼB(PKB)/Aktの活性化を引き起こすことにより多彩な生物活性の発現に寄与している。PTENはタンパク質に対するホスファターゼ活性は弱く、活性型のイノシトールリン脂質であるPtdIns(3,4,5)P3の脱リン酸化反応を担い、PtdIns(4,5)P2へと変換する。PTENが阻害されることにより細胞内にはPtdIns(3,4,5)P3が蓄積し、発がんに関与するシグナルが伝達される。実際、癌細胞においてはPTEN遺伝子に変異などの異常が見つかっている[3]。 マイクロRNAによる制御マイクロRNAの1種であるmiR-22はAktを活性化することでPTEN/Akt経路を制御している[4]。miR-22はがん化の抑制に働いている事が分かっているが[5]、その一つの経路としてPTEN/Akt経路が考えられる。
出典· 今堀 和友、山川 民夫 編集 『生化学辞典 第4版』東京化学同人 2007年 ISBN 978-4-8079-0670-3 · Gomperts BD, Kramer IM and Tatham PE 原著『シグナル伝達』メディカル・サイエンス・インターナショナル 2004年 ISBN 4-89592-369-X 参考文献1. ^ Steck PA, Pershouse MA, Jasser SA, Yung WK, Lin H, Ligon AH, Langford LA, Baumgard ML, Hattier T, Davis T, Frye C, Hu R, Swedlund B, Teng DH and Tavtigian SV.(1997)"Identification of a candidate tumour suppressor gene, MMAC1, at chromosome 10q23.3 that is mutated in multiple advanced cancers."Nat.Genet. 15, 356-362. PMID 9090379 2. ^ Li J, Yen C, Liaw D, Podsypanina K, Bose S, Wang SI, Puc J, Miliaresis C, Rodgers L, McCombie R, Bigner SH, Giovanella BC, Ittmann M, Tycko B, Hibshoosh H, Wigler MH, Parsons R.(1997)"PTEN, a putative protein tyrosine phosphatase gene mutated in human brain, breast, and prostate cancer."Sciece. 275,1943-7. PMID 9072974 3. ^ Li J, Yen C, Liaw D, Podsypanina K, Bose S, Wang SI, Puc J, Miliaresis C, Rodgers L, McCombie R, Bigner SH, Giovanella BC, Ittmann M, Tycko B, Hibshoosh H, Wigler MH, Parsons R.(1997)"PTEN, a putative protein tyrosine phosphatase gene mutated in human brain, breast, and prostate cancer."Science. 28,1943-7. PMID 9072974 4. ^ Bar N, Dikstein R (2010) miR-22 Forms a Regulatory Loop in PTEN/AKT Pathway and Modulates Signaling Kinetics. PLoS ONE 5(5): e10859. doi:10.1371/journal.pone.0010859 5. ^ Dan Xu, Hidetoshi Tahara et al, miR-22 represses cancer progression by inducing cellular senescence,the Journal of cell biology,April 18, 2011 |
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加水分解酵素加水分解酵素(かすいぶんかいこうそ、英: hydrolase)とはEC第3群に分類される酵素で、加水分解反応を触媒する酵素である。ヒドロラーゼと呼ばれる[1]。代表的な反応はタンパク質、脂質、多糖〈炭水化物〉をアミノ酸、脂肪酸、ブドウ糖などに消化分解する生化学反応に関与する。あるいはコリンエステラーゼ、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼやプロテインホスファターゼのような生体内のシグナル伝達に関与するものも多い。 概略加水分解酵素は、エステル結合〈エステラーゼ〉、グリコシド結合〈グリコシダーゼ〉、エーテル結合、チオエーテル結合、ペプチド結合〈ペプチダーゼ〉などの加水分解を触媒する物の他に、アミドC-N結合、C-C結合、C-ハロゲン結合、P-ハロゲン結合およびP-N結合の一方にHを、他方にOH基をつけて切断する反応を触媒するものが存在する[2]。またATPアーゼのようにシグナル伝達や筋収縮などに関与する酵素も加水分解酵素に分類される。 EC.3.-(加水分解酵素)EC.3.1.-(エステル結合に作用)EC.3.1.1.-(カルボン酸エステル加水分解酵素)
EC.3.1.2.-(チオエステル加水分解酵素)
EC 3.1.3.-(リン酸モノエステル加水分解酵素)
EC 3.1.4.-(リン酸ジエステル加水分解酵素)
EC 3.1.5.-(三リン酸モノエステル加水分解酵素)EC 3.1.6.-(硫酸エステル加水分解酵素)
EC 3.1.7.-(二リン酸モノエステル加水分解酵素)
EC 3.1.8.-(リン酸トリエステル加水分解酵素)EC 3.1.11.-(5'-ホスホモノエステル産生エキソデオキシリボヌクレアーゼ)
EC 3.1.13.-(5'-ホスホモノエステル産生エキソリボヌクレアーゼ)
EC 3.1.14.-(3'-ホスホモノエステル産生エキソリボヌクレアーゼ)EC 3.1.15.-(リボ核酸またはデオキシリボ核酸に作用する、5'-ホスホモノエステル産生エキソヌクレアーゼ)EC 3.1.16.-(リボ核酸またはデオキシリボ核酸に作用する、3'-ホスホモノエステル産生エキソヌクレアーゼ)EC 3.1.21.-(5'-ホスホモノエステル産生エンドデオキシリボヌクレアーゼ)
EC 3.1.22.-(3'-ホスホモノエステル産生エンドデオキシリボヌクレアーゼ)
EC 3.1.23.-(欠番)- EC 3.1.21.3, EC 3.1.21.4 あるいは EC 3.1.21.5へ統合 EC 3.1.24.-(欠番)- EC 3.1.21.3, EC 3.1.21.4 あるいは EC 3.1.21.5へ統合 EC 3.1.25.-(サイト特異性を有する代替塩基特異性エンドデオキシリボヌクレアーゼ)
EC 3.1.26.-(5'-ホスホモノエステル産生エンドリボヌクレアーゼ)
EC 3.1.27.-(3'-ホスホモノエステル産生エンドリボヌクレアーゼ)
EC 3.1.30.-(リボ核酸またはデオキシリボ核酸に作用する、5'-リン酸モノエステル産生エンドリボヌクレアーゼ)EC 3.1.31.-(リボ核酸またはデオキシリボ核酸に作用する、3'-リン酸モノエステル産生エンドリボヌクレアーゼ)EC.3.2.-.(グリコシラーゼ)EC.3.2.1.-.(O-およびS-グリコシル化合物加水分解酵素)
EC 3.2.2.-(N-グリコシル化合物加水分解酵素)
EC 3.2.3.-(S-グリコシル化合物加水分解酵素) (廃止)
EC.3.3.-.(エーテル結合に作用)EC 3.3.1.-(チオエーテルおよびトリアルキルスルホニウム加水分解酵素)
EC 3.3.2.-(エーテル加水分解酵素)
EC 3.4.-.(ペプチド結合に作用(ペプチダーゼ))EC 3.4.1.-(α-アミノアシルペプチド加水分解酵素) (廃止)
EC 3.4.2.-(ペプチド性アミノ酸加水分解酵素) (廃止)
EC 3.4.3.-(ジペプチド加水分解酵素) (廃止)
EC 3.4.4.-(ペプチド性ペプチド加水分解酵素) (廃止)
EC 3.4.11.-(アミノペプチダーゼ)
EC 3.4.12.-(ペプチド性アミノ酸加水分解酵素ないしはアシルアミノ酸加水分解酵素) (廃止)
EC 3.4.13.-(ジペプチダーゼ)
EC 3.4.14.-(ジペプチジルペプチダーゼおよびトリペプチジルペプチダーゼ)
EC 3.4.15.-(ペプチジルジペプチダーゼ)
EC 3.4.16.-(セリン性カルボキシペプチダーゼ)
EC 3.4.17.-.(金属プロテアーゼ)
EC 3.4.18.-(システイン性カルボキシペプチダーゼ)EC 3.4.19.-(オメガペプチダーゼ)
EC 3.4.21.-(セリンエンドペプチダーゼ)
EC 3.4.22.-.(システインプロテアーゼ)
EC 3.4.23.-.(アスパラギン酸プロテアーゼ) |