BL31.上髎(じょうりょう)

取穴部位:第1後仙骨孔部

筋肉:仙棘筋

運動神経:脊髄神経後枝

知覚神経:中殿皮神経

血管:外側仙骨動脈

BL31.上髎(じょうりょう)

 第1後仙骨孔部に取る。

解剖学的データ

筋肉

脊柱起立筋

最大の背筋で、脊柱を伸展して屈曲するのを防ぎ、脊柱を起立させる働きがある。脊柱起立筋はさらに、腸肋筋・最長筋・棘筋の3つに分けられる。

運動神経

脊髄神経‐後枝

脊髄に出入りする末梢神経のことで、頸神経・胸神経・腰神経・仙骨神経・尾骨神経よりなる。脊髄神経の前枝は後頭部・胸部・腹部・上肢・下枝の筋肉や皮膚を、後枝は肩背部・腰部・臀部の筋肉や皮膚を分節的にする。

知覚神経

中殿皮神経

第1~第3仙骨神経の後枝から起こり、殿部の知覚を司る神経。

血管

外側仙骨動脈

内腸骨動脈から分岐する動脈で、第4・5腰神経、第1・2・3仙骨神経の神経線根を栄養する。

 

主治・対象疾患

腰痛

ぎっくり腰

坐骨神経痛

下痢

便秘

痔疾

脱肛

尿漏れ

尿閉

頻尿

尿路痛

尿道炎

膀胱炎

膀胱カタル

おりもの過多

月経過多

月経過少

不正性器出血

無月経

更年期障害

生理痛

生理不順

のぼせ

下腹部痛

下腹部の脹り

子宮筋腫

子宮けいれん

子宮内膜炎

脳性麻痺

片麻痺

直腸炎

直腸カタル

リウマチ

ED(勃起不全)

遺精

 

効能

婦人科疾患に有効です。子宮内膜炎、子宮後屈のときの白帯下や月経不順に有効です。大小便不通、片麻痺にも有効です。

月経不調
ED

その他:坐骨神経痛、子宮脱など

取り方

次髎から撫で上げたとき、最初に触れる陥凹分に取る、上後腸骨棘の頂点の高さにあたる。
※左右の上髎・次髎・中髎・下髎の8穴を一般に八髎穴という。
※それぞれ後仙骨孔に一致し、下方に行くにしたがって後正中線に近づく。

部位

仙骨部、第1後仙骨孔。

成り立ち

上髎、次髎、肘膠、下髎の髎は、後仙骨孔を指す。左右合わせて八つの後仙骨孔があるため、古代中国で仙骨のことを 「八髎」とも呼んだ。八髎穴は、腰痛、大小便の問題、婦人科諸病等に効果があるとされる。

 

BL31. 上髎(じょうりょう)

経絡・分類

上髎は足の太陽膀胱経に属する後谿八髎穴の一つであり、仙骨部の第1後仙骨孔に位置する経穴です。

名称の由来

「上」は上位を示し、「髎」は仙骨孔を意味します。仙骨孔は左右に合わせて八つあり「八髎竅」と呼ばれ、その最上部の孔にあるツボであることから「上髎」と名付けられました。

取穴部位

  • 位置:仙骨部、第1後仙骨孔の中央
  • 採穴法:正中仙骨稜から左右各1.5寸外側、または臀溝上縁中央の真ん中
  • 触知:お尻を撫でるように探ると第1後仙骨孔の凹みが感知できる点が上髎です。

主治・効能

上髎を刺激すると下腹部および骨盤内器官の血行を調整し、以下のような症状に効果を発揮します:

  • 泌尿器系・生殖器系疾患
  • 尿閉、排尿困難
  • 生理痛、月経不順、異常性器出血
  • ED(勃起不全)、不妊
  • 下腹部・腰臀部の痛み
  • 腰痛、坐骨神経痛
  • 下肢のしびれ、痛み
  • 皮膚疾患
  • 皮膚の乾燥、湿疹、帯状疱疹

刺鍼法と灸法

  • 刺鍼:仰臥位または側臥位で皮膚を軽く引き伸ばし、0.51.0寸の深さで垂直に刺入します。
  • 灸法:直接灸または間接灸を行い、温熱刺激で経気を補助します。

注意事項

  • 仙骨部は骨膜や神経が集まる部位のため、過度の深刺や強い圧迫を避けること。
  • 刺入の際に放散痛が下肢へ走ることがありますが、これは坐骨神経領域の反応であり適度な刺激と捉え緩めに施術します。

さらに、上髎は骨盤内臓器の調整ポイントとして婦人科や泌尿器科疾患に応用されるほか、スポーツ選手の腰臀部の柔軟性向上や慢性腰痛緩和にも利用されています。日常ケアでは軽く指圧を加えるだけでも骨盤周囲の血流と緊張が改善しやすくなります。

上髎(BL31)の具体的な治療効果

1. 泌尿・生殖器系の調整

  • 頻尿や排尿困難、尿失禁の改善
  • 勃起不全(ED)の緩和、男性不妊治療の補助
  • 不妊や生殖機能全般のサポート

2. 婦人科症状の緩和

  • 月経痛、月経不順、経血過多・過少の改善
  • 更年期障害に伴う自律神経失調の軽減

3. 下半身の冷え・血流改善

  • 下腹部の冷えや骨盤内うっ滞感の解消
  • 頻尿・便秘など排泄機能の正常化

4. 筋骨格系・神経症状の緩和

  • 腰痛や坐骨神経痛、下肢のしびれ・だるさの軽減
  • 骨盤帯周囲の緊張緩和による歩行時の負担軽減

5. その他の適応

  • 足底筋膜炎への補助的治療
  • 肩こり・首こり、頭痛など全身の緊張性疾患の緩和

セルフケア・応用のヒント

  • 指圧:座位で仙骨部を軽く押し、痛気持ちいい圧を12分キープすると血流が改善します。
  • お灸:上髎周辺に台座灸やせんねん灸を11回、35壮行うと、冷えや瘀血の解消に効果的です。
  • 組み合わせ:同じ「八髎穴」の次髎(BL32)・中髎(BL33)と一緒に刺激すると、骨盤全体の循環促進や自律神経調整作用が高まります。
  • 季節のこまめケア:特に冬場の冷えや梅雨時のだるさには、入浴後すぐに刺激すると効果を実感しやすくなります。

さらに、患者の具体的な症状や体質に応じて鍼の太さやお灸の種類を調整することで、より安全かつ的確な治療が可能です。また、背部の髎穴全体を用いたトータルケアプランをご希望の場合は、BL32BL34を組み合わせた施術プロトコルもご紹介できます。

その他の髎穴(BL32BL34)の治療効果

BL32. 次髎(じりょう)

  • 婦人科領域の調整:月経不順、月経痛、経血過多・過少の改善
  • 排尿機能の正常化:頻尿、排尿困難の緩和
  • 男性生殖機能のサポート:勃起不全(ED)の改善や不妊治療の補助
  • 筋骨格系症状:腰痛、坐骨神経痛、下肢のしびれ・痛みの軽減

BL33. 中髎(ちゅうりょう)

  • 月経痛・生理不順の緩和、産後の体調管理
  • 帯下異常(おりものの過多・異常性帯下)の改善
  • 肛門周囲疾患:痔核や痔瘡に伴う痛み・痒みの軽減
  • 下背部および骨盤臓器の血流促進による腰臀部の緊張緩和

BL34. 下髎(げりょう)

  • 骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱脱など)の補助療法
  • 排便機能の調整:便秘、排便困難、痔疾患の改善
  • 会陰部・直腸周囲の神経調整による会陰部痛・違和感の軽減
  • 産後ケアや不妊、生理不順など婦人科症状のサポート

セルフケア・応用のヒント

  • 同側のBL31BL34を順に指圧し、骨盤全体の循環を促進すると相乗効果を得やすい
  • 入浴後やお灸を併用すると温熱刺激が加わり、筋緊張と冷えの同時緩和に有効
  • 冬場や梅雨時のだるさには、臀部を温めた状態で1点ずつゆっくり刺激すると症状の戻りが少ない
  • 専門鍼灸院での通電鍼や温灸プロトコルと組み合わせると、自律神経調整にも高い効果が期待できる

さらに、骨盤内の神経支配との関連で仙骨神経節ブロックなどの西洋医療手技と組み合わせたハイブリッド治療も注目されています。次のステップとして、各髎穴の刺激強度や頻度を症状別に最適化するプロトコル設計を行うと、より高精度な個別化治療が可能になります。

髎穴(BL31BL34)の刺激方法

1. 手技刺激(指圧・マッサージ)

  • 体勢:座位または背臥位で骨盤を安定させる
  • 探穴:仙骨中央の後仙骨孔(第1〜第4)を親指または第二関節で探る
  • 圧迫法:痛気持ちいい強度で5秒押圧→5秒解放を1セット
  • セット数:1穴あたり35セット(深呼吸を織り交ぜながら)
  • ポイント:指腹だけでなく、拳骨(第二関節の出っ張り)で押すとより深部の筋肉に届きやすい

2. 刺鍼法

  • 鍼具:直鍼(0.180.25 × 3040㎜)
  • 刺入方向:穴位に対して垂直
  • 深 度:0.51.0寸(仙骨孔の凹みに沿って浅く)
  • 手技操作:
  1. 補法(補う場合):軽く捻りながらゆっくり刺入
  2. 瀉法(流す場合):速刺し緩捻直刺のまま抜鍼
  • 留鍼時間:1015分(症状に応じて調整)
  • 合併療法:留鍼中に軽い温灸を併用すると血流・神経調整効果が高まる

3. 灸法

  • 道 具:せんねん灸(台座灸)または間接灸
  • 壮 数:1穴につき35
  • 施灸時間:温感が心地よい範囲で1015
  • タイミング:入浴後や手技・刺鍼前に行うと筋緊張がほぐれやすい
  • 注意点:皮膚にヤケド防止用パッドを敷く、同一部位に長時間当て続けない

4. 電気刺激(通電鍼・低周波治療)

  • 設 定:15Hzの低周波モード
  • 接 続:刺鍼後、鍼柄に電極を装着
  • 時 間:10分前後
  • 効 果:骨盤内臓器調整、自律神経安定、疼痛緩和に有効

5. 自宅でできるセルフケア

  • テニスボールやゴルフボールを壁・床と背中の間に挟み、ゆっくり転がす
  • お灸シート(低温タイプ)を貼って1020分温める
  • 入浴時に腰湯や臀部浴で温め、上記の指圧を組み合わせる

次のステップ

症状や体質に応じて

  1. 刺激強度(指圧圧力・灸の壮数)
  2. 刺激頻度(週23回程度が目安)
  3. 他の要穴(腎兪BL23、次髎BL32など)との併用

を最適化すると、より高い治療効果が期待できます。また、通電鍼の周波数や波形を変えてみる、温灸器具や遠赤外線機器を取り入れるなど、ハイブリッドなアプローチもおすすめです。

他の経穴の刺激方法

東洋医学では「経穴(ツボ)」を刺激する手技や物理的手段が多岐にわたります。以下では代表的な方法を分類し、具体的な手順やポイントをまとめました。

1. 手技刺激(マニュアル)

  • 指圧(acupressure
  • 方法:親指や指腹を経穴に対して垂直に57秒押圧→35秒解放
  • 強度:痛気持ちいい程度で無理なく圧を加える
  • 回数:1穴あたり35セット、112
  • 揉捏/ねじり(kneading
  • 方法:親指と他の指で皮膚・筋層をつまむように揉み、軽く捻る
  • ポイント:経絡の走行に沿って揉むことでリンパ・血流を促進
  • 敲打法(たたき)
  • 方法:拳の側面または手のひらで経穴周囲を軽く1020回連打
  • 効果:局所の神経を活性化し血流を増加

2. 鍼刺激・通電鍼

  • 刺鍼法
  • 鍼具:直鍼0.180.25mm × 3040mm
  • 刺入深度:部位により0.31.5
  • 手技:ゆっくり捻入(補法)または速刺し+緩捻(瀉法)
  • 留鍼時間:1015分(症状に応じて調整)
  • 通電鍼(electroacupuncture
  • 周波数:15Hz(低周波)
  • 時間:1015
  • 効果:疼痛緩和、自律神経調整、自律神経バランス改善

3. 灸法・温熱

  • 間接灸
  • 道具:せんねん灸(台座灸)
  • 壮数:1穴につき35
  • 時間:温感が心地よい範囲で1015
  • 直接灸(温灸)
  • もぐさを直接皮膚上に据え、小さな焦げ跡を作る
  • 火傷に注意し、必ず専門家の指導下で実施
  • 遠赤外線ランプ浴
  • 経穴部位を35分間温める
  • 効果:筋緊張緩和、局所血行促進

4. 物理刺激(レーザー・超音波)

  • 低レベルレーザー(LLLT
  • 波長:650830nm
  • エネルギー密度:26J/cm²
  • 照射時間:3060秒/点
  • 超音波療法
  • 周波数:1MHzまたは3MHz
  • 強度:0.51.0W/cm²
  • 時間:510

5. 吸角(カッピング)・刮痧(グゥアシャ)

  • カッピング(dry cupping
  • 方法:カップを皮膚に吸着させ、510分保持
  • 効果:筋膜リリース、局所血流促進
  • 刮痧(Scraping
  • 道具:牛角や陶器製の刮痧板
  • 方法:皮膚表面を35往復程度、一定の圧で撫でる
  • 効果:瘀血除去、筋緊張の緩和

6. 耳介刺激・シール療法

  • 耳つぼ(auricular acupressure
  • 代表穴:神門、肺、肝、腎など
  • 方法:耳介のツボに種子や小さな磁石を絆創膏で貼付、35日キープ
  • 経穴シール
  • 遠赤外線シートや漢方成分入りシールを13日貼付
  • 効果:温熱刺激+漢方成分による皮膚透過刺激

これらの方法は、目的とするツボや症状、患者の体質に合わせて組み合わせることで相乗効果が期待できます。

次のステップとして、

  1. 特定疾患・症状に最適な「手技+物理刺激」のプロトコル設計
  2. 在宅セルフケア向けガイド作成
  3. 専門家の指導下での安全管理ルール

などを検討すると、より効果的な経穴療法が実現します。

【参考文献】

  1. 経穴刺激による体調改善効果(ekichika.net
  2. 高齢者の慢性腰痛改善を目指した経穴刺激セルフケア法の開発